労働法の学習・勉強に

第3話 個別的労働関係上の使用者

 

労働法における当事者は、労働者と使用者です。

 

今回は、個別的労働関係上の使用者についてみていきましょう。

 

 

 

労基法は、同法が対象とする使用者についての定義規定を置いています。

 

さっそく見てみましょう。

 

この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。(労基法10条)

 

労働者の定義よりもわかりやすいかもしれませんね。

 

要するに、
@事業主、A事業の経営担当者、Bその事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者、が「使用者」です。

 

したがって、使用者が法人であることもありますし、
事業主のために行為をしているのが個人であればその者も使用者です。

 

見ての通り、
労基法上の労働者と違って、条文の解釈自体はそれほど問題となりません。

 

 

 

難しくなるのはここからです。

 

労働契約を結んだのはいいものの、
誰と結んだ状態になっているのかわかりにくいケースが存在します。

 

それは、次の三つです。

 

@子会社の労働者と親会社
A業務請負契約によって受け入れている下請会社の労働者と元請会社
B労働者派遣契約によって受け入れている派遣会社の労働者と派遣先の会社

 

以上の三ケースは原則として、
@子会社、A下請会社、B派遣会社が使用者となります。

 

しかし実体として子会社がなかったり(@の場合)、
実際に元請会社や派遣先会社で働いていたりすると(A、Bの場合)、
親会社、元請会社、派遣先会社も使用者に当たるのではないかと思えてきませんか?

 

この点につき@については、
法人格否認の法理を用いて、親会社が使用者とされることがあります。(川岸工業事件・仙台地判昭和45年3月26日、徳島船井電気事件・徳島地判昭和50年7月23日)

 

論点としてはおもしろいのですが話が複雑になりますので、
もっと知りたいあなたは、会社法の教科書で詳しく勉強してください。

 

続いてBについてですが、
労働者派遣については稿を改めて説明することにします。

 

そこで今回はAについての解説です。

 

下請会社の労働者は、元請会社に対して「あなたのところの社員だ」ということができるのか。(正確にいえば、元請会社の従業員であることの地位を裁判所に確認してもらうことになります。)

 

この問題を解決するにあたって、現在でも効力のある先例となっているのが、
サガテレビ事件・福岡高判昭和58年6月7日です。

 

事件の概要は次の通りです。

 

Xらは印刷業を営む会社Aの従業員でしたが、テレビ放送を業とする会社Yに派遣され、Y社内で4種の放送業務およびタイプ印刷の業務に従事していました。

 

Xらは業務の遂行につき、必要があればYから直接具体的な指示を受けており、Y社内の作業室やロッカーの使用も認められていました。

 

一方、Xらの出退勤管理やこれに基づく賃金計算の管理はA社が行い、勤務時間や休日はY社の従業員と異なった扱いがなされていました。

 

その後、XらとAとの関係が悪化し、
AはYとの業務委託契約を解除したため、
XらはYに対して従業員としての地位確認請求をしたのです。

 

これに対して裁判所は次のように答えました。

 

XらとYとの間に使用従属関係が成立している。
→ただし使用従属関係があるからといって、直ちに労働契約が成立したとはいえない。
労働契約があるというためには、黙示の意思の合致でもよい。
→ただしXらとYとの間に黙示の意思の合致があったともいえない。

 

…ものすごく簡単にしてしまいました。ひとつずつみていきましょう。

 

まず「使用従属関係」ですが、前回お話した通り
「使用され」ているかどうか、ということですね。

 

わからないときは、もう一度復習してみてください。

 

次に、「黙示の意思の合致」とは何でしょう。

 

これについて、裁判所は次のように述べています。(長いけど、引用します。)

 

「事業場内下請労働者(派遣労働者)の如く、外形上親企業(派遣先企業)の正規の従業員と殆んど差異のない形で労務を提供し、したがって、派遣先企業との間に事実上の使用従属関係が存在し、しかも、派遣元企業がそもそも企業としての独自性を有しないとか、企業としての独立性を欠いていて派遣先企業の労務担当の代行機関と同一視しうるものである等その存在が形式的名目的なものに過ぎず、かつ、派遣先企業が派遣労働者の賃金額その他の労働条件を決定していると認めるべき事情のあるとき」

 

 

上記の場合には、「黙示の意思の合致」があると認めうるとしています。

 

長くてよくわからないので、整理しましょう。

 

要するに、
@下請(派遣元)企業が企業としての独立性を欠いていて、元請(派遣先)企業の労務担当の代行機関のようなものになってしまっていること
A元請(派遣先)企業が指揮命令以外に、採用・配置・懲戒・解雇等の人事管理を行っていること
B下請(派遣元)企業の労働者の賃金が実質的に元請(派遣先)企業によって決定され、下請(派遣元)企業を介して支払われているとみなすことができること

 

これらが、「黙示の意思の合致」を認める要件となります。

 

先ほどのサガテレビ事件を振り返ってください。

 

A社はXらを派遣していた傍ら、印刷業を営んでいましたので、
@の要件は満たさないでしょう。

 

またXらはA社で採用され、A社の人事管理を受けていましたので、
Aの要件も満たしません。

 

さらに事実を付け足すならば、
A社とY社との間で定められていた業務委託料は、
派遣する労働者の人数、労働時間量に関係なく一定額であったことがわかっており、
Bの要件も満たしません。

 

こうしてみると、下請会社の労働者が元請会社を使用者と認めてもらうには、
かなり高いハードルであることがわかるでしょう。

 

 

 

最後にまとめます。

 

・個別的労働関係上の使用者を判断するには、
「使用従属関係」と「黙示の意思の合致」が必要です。
・「使用従属関係」は前回扱いました。
・「黙示の意思の合致」の判断には、サガテレビ事件判決の要件が有用です。

 

 

 

ここまで、個別的労働関係上の使用者についてお話してきました。

 

今回は、労働者派遣問題に繋がる重要なテーマでした。

 

また私自身は、労働法の根幹と深くかかわっている非常に重要なテーマだと考えています。

 

労働法は、民法をはじめとする近代市民法の修正法として登場しました。

 

つまり近代市民法が「意思の合致」を重視するあまり、
当事者の力関係が見過ごされてきたことを反省した結果として、労働法があるのです。

 

これを踏まえると、
個別的労働関係上の使用者を決める要件である「黙示の意思の合致」は、
どこまで客観的に判断すべき(または、どこまで主観が必要)なのでしょうか…。

 

法律は生き物です。あなたも考えてみてください。