労働法の学習・勉強に

第2話 個別的労働関係上の労働者

 

労働法を学習するにあたって最初に問題となるのは、誰が労働法の適用を受けるのかということです。

 

具体的には、「アルバイトに労働法の適用はあるのか」、「自分のトラックを運搬業に用いている人は労働者なんだろうか」といった問題があります。

 

労働法ではどのように考えられているのか、確認していきましょう。

 

 

 

労働法を学習するにあたり、必ず参照する重要な法律が労働基準法(略して、労基法)です。

 

労働法と一言でいっても「労働法」という法律があるのではなく、労働にかかわる全ての法律またはその学問を指して労働法と呼ぶのですね。

 

労基法は、使用者と労働者の間で定められる労働条件について最低限の基準を書き出した法律です(労基法1条)。

 

労基法については、追々お話しすることになるでしょう。

 

労基法には、その適用の対象となる者について定義規定を置いています。この条文を読めば、今回の話はここで終わるはずです。

 

まずは労働者から見てみましょう。

 

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。(労基法9条)

 

…わかりましたか?

 

かつての私はよくわかりませんでした。

 

そもそもあまり定義になっていない気がします。

 

「使用される者」で「賃金を支払われる者」なんて、それは労働者なんだから当たり前だろうと言いたくなります。

 

しかしこの定義が、労働法の適用対象者となるか否かの判断にとても大事なのです。

 

たとえば、先ほど例に挙げたアルバイト。

 

飲食店でのアルバイトなら、お店の人の指示を受けながら働き、賃金を受け取っているはずです。

 

塾で教えるアルバイトなら、塾が管理するコマ(授業時間)に合わせて働き、賃金を受け取るでしょう。

 

こうしてみると、しっかり労基法9条の定義に当てはまっているのです。

 

それでも、最初に感じた違和感が残ります。

 

「賃金を支払われる」はなんとなくわかるけど、「使用される」って何だろう。

 

実のところ、「使用される」の具体的な意味を明らかにすることは長い間議論がなされているほど非常に難しい問題なのです。

 

労働者とは何かという問題は、「使用される」とは何かという問題に収れんするのですね。

 

 

 

ところで、これは法律というものを考えるととても興味深いことです。

 

現代社会において物の売買契約をするときは、互いの意思(意志ではありません)の合致が不可欠です。

 

これが近代市民法の大原則であり、独立した個人の登場を意味します。

 

この原則からいくと、労働契約だって契約ですから互いの意思の合致(ここで働かせてください/ここで働いてください)が必要です。

 

しかし「使用される」という状態に対して、互いの意思が存在したかどうかは関係がありません。

 

労働法においては、当事者がどう思っていようと、客観的な状態から適用対象が確定することがあります。

 

これは労働法が登場してきた理由につながってくる話ですので、後の回でお話しします。

 

 

 

さて、労基法上の労働者を決める「使用される」の判断。

 

これを専門的には、使用従属性の判断といいます。

 

結論から言うと、使用従属性があると判断するためには、その者がどのような働き方をしていたのかあらゆる要素から総合的に導き出すしかないのです。

 

Aだったら労働者、Bだったら労働者じゃない、といった判断ができればよいのですが、労働者かどうかというのはそんなに簡単な問題ではないのです。

 

「A,B,Eの要素があって、C,Dは若干満たしていないが、これは労働者と見てよいだろう…」

 

こんな感じで慎重に判断するものなのです。

 

では、どのような要素があるのか。判断要素をまとめたものとして有名なのが、1985年の労働基準法研究会報告です。

 

ややこしくなってきたのでここまでの話をまとめましょう。

 

・労基法の適用対象者となる労働者は、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されている。

 

・上の定義だけではよくわからないので、「使用される」の意味が議論されてきた。

 

・結局、「使用され」ているか否かは、あらゆる要素から総合的に判断するしかない。

 

それでは、判断基準の内容を概観してみましょう。

 

1985年に出された労働基準法研究会報告の内容は、労基法上の労働者とは何であるかにつき、当時の議論や集積された裁判例の考え方をまとめた判断基準となっていました。

 

その内容は、次の通りです。

 

・使用者性(使用されているかどうかの判断)

 

@仕事の依頼等への諾否の有無(自由に仕事を受ける、または断れるか)

 

A業務遂行上の指揮監督の有無(仕事をするにあたって、どれだけの指示を受けるか)

 

B勤務時間・勤務場所の拘束性の有無(仕事をする時間や場所は、どれだけ自由か)

 

C他人による代替性の有無(その人にしかできない仕事に就いているかどうか)

 

したがって、@自由に仕事を断れず、A仕事の裁量が少なく、B仕事の場所や時間が決められ、C代わりに仕事を担当できる者がいないならば、完全に使用されていることになるでしょう。

 

ただし使用者性の判断のみでは、労働者かどうかわからない場合も出てきます。そこで、判断の補強要素として以下の点も挙げられています。

 

・賃金性(報酬が労務の対価であるかどうかの判断)

 

D労務提供の時間の長さに応じて報酬額が決まるならば、「賃金性」が強い。

 

・その他
E事業者性の有無(自らの機械や仕事道具を用いているかどうか)

 

F専属性の程度(他社の業務への従事が事実上制限されているかどうか)

 

G公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料等の控除がなされているかどうか)

 

これら@〜Gを総合的に考慮することで具体的な事案ごとに労働者か否かを判断するのですね。

 

 

 

もっとも気を付けてほしいのは、@〜Gの判断基準は法律(労基法など)に定められているわけではありません。

 

したがって、裁判所が労働者か否かを判断するにあたっては@〜Gすべてを使う必要はありませんし、いってしまえばすべて使う必要もありません。

 

ただ、現在でもこの判断基準は有用ですから、概ねこの基準に従って判断がなされているといえましょう。

 

 

 

さて今回は、労基法9条を手掛かりに労基法の対象とする労働者とは何か検討してきました。

 

最初から難しくてもう嫌になったかもしれません。しかし、全く心配する必要はありません。

 

最初に触れるべきテーマでありながら、最も奥深いテーマでもあるからです。

 

労働者とは誰か、とは労働法において永遠のテーマなのです。

 

ひとまず今回のテーマを通して、条文を読むだけでは到底答えにたどり着かないことが理解いただけたのではないでしょうか。

 

このサイトを最後まで通して読めば、労働法の考え方がわかるようになります。

 

今はわからなくても気にしないで、どんどん読み進めていってください。