労働法の学習・勉強に

第21話 不当労働行為

 

今回は、集団的労使関係法の三回目です。

 

早速始めましょう。

 

 

 

「不当労働行為」とは何でしょうか。

 

労働法においては、
正しい労働環境の形成は労働組合と使用者の話し合い(団体交渉)によって行うのが理想とされてきた、という話をしましたね。

 

ところが使用者(「集団的労使関係上の使用者」ですね、覚えてますか?)は、こうした話し合い自体を避けようとしたり、労働組合にプレッシャーをかけて正しい労使の関係を乱そうとしたりと、あらゆる手段を使って影響力を行使することがあります。

 

これでは、労働法の目的を達成することはできません。

 

そこで使用者が上記のような行動をとったときは、
これを「不当労働行為」として禁止(かつ労働組合を救済)しよう、というのが労働法の考え方なのです。

 

禁止しようと言いましたが、じゃあどこが禁止してくれるのか?

 

「それは裁判所でしょう?」という人がいれば、素晴らしいですね。

 

ただ、それだけでは半分正解です。

 

「不当労働行為」が疑われる場合は、
全国47か所に設置された労働委員会という行政機関も事件を審査してくれるのです。

 

そして、「これは不当労働行為だな」と労働委員会が判断すれば、
「救済命令」という強制力のある行政命令が出されます。(労組法27条の12)

 

このように、労働法は集団的労使関係を中心に考えられてきましたので、
組合つぶしや団体交渉拒否といった「不当労働行為」に対しては、
迅速かつ専門的に対応してくれる機関(労働委員会)が必要だったのですね。

 

不当労働行為が疑われる場合は、
裁判所で争うことができるのはもちろん、
労働委員会という行政機関も取り扱ってくれるんだということを知っておきましょう。

 

それでは、最初に労働委員会で審査を受けたあとはどうなるのでしょうか。

 

簡単に(原則だけ)説明しますと、
まず、全国47か所にある都道府県労働委員会が審査します。

 

その後、都道府県労働委員会の出した判断に、不服があったとしましょう。

 

すると、今度は中央労働委員会(東京都港区芝公園にあります)で再審査されます。

 

中央労働委員会の判断にも不服があったら…。

 

こうなると、労働委員会を相手取って、裁判所での争いになります。

 

最後は裁判所での判断を仰ぐことができる点で、裁判所において裁判を受ける権利(憲法32条)はちゃんと守られていますね。

 

ここまでを整理しましょう。

 

・労働法の目指す適切な集団的労使関係の実現のため、使用者による「不当労働行為」は禁止されている。
・「不当労働行為」を禁止するため(かつ労働組合を救済するため)、労働委員会という行政機関が設置されている。

 

以上の二点、押さえておきましょう。

 

 

 

続きです。

 

それでは、具体的に「不当労働行為」とはどのような行為なのでしょうか?

 

実は、労組法7条を見ると、禁止される不当労働行為が類型別に規定されていることがわかります。

 

条文は四つに分かれています。

 

それぞれ、@不利益取扱いA団交拒否B支配介入C労働委員会に不当労働行為の審査を申し立てたこと等を理由とする不利益取扱いを指しています。

 

ひとつずつ説明していきましょう。

 

 

 

@不利益取扱い

 

まず、条文から確認してみましょう。

 

労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。(労組法7条1号)

 

この条文だけでも、けっこう説明されていますね。

 

ただ肝心の「不利益取扱い」が何であるか、
具体的には書かれていないので、補足しておきます。

 

不利益取扱いには、労働関係上の不利益(組合員のみに行う懲戒処分など)、経済的不利益(組合員のみ残業を認めない…など)、精神的不利益(組合員に屈辱的な仕事しか与えない…など)、組合活動上の不利益(組合活動を妨げる目的の配転など)、非組合員と組合員との差別的取扱いが含まれると考えられています。

 

それから、「ただし〜」(但書)についても説明しておきましょう。

 

あなたは「ユニオン・ショップ協定」というのを聞いたことがありませんか?

 

「ユニオン・ショップ協定」というのは、
使用者が労働組合との約束(労働協約)に従って、
当該労働組合に加入しない者、当該労働組合の組合員でなくなった者を解雇しなければならない義務を負う仕組みのことです。

 

不思議なシステムですよね。

 

労働協約に「ユニオン・ショップ協定」があることによって、労働者は半強制的に労働組合に加入することになります。

 

しかし労働組合の側からみれば、組合員が増えるほど組合の力は大きくなりますから、
労働者にとっても不満はないでしょ、ということなのです。

 

ですから、結局このシステムは「不利益取扱い」ではない、ということになります。

 

A団交拒否

 

次に「団交拒否」です。

 

使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。(労組法7条2号)

 

これまで何度も言っている通り、
「団体交渉」をすることで理想の労働条件を形成していこうというのが、
労働法の基本的な考え方です。

 

その団体交渉を頭から拒否することは、「不当労働行為」として許されません。

 

「団交拒否」のパターンはさまざまですが、ひとつだけ紹介しておきましょう。

 

「団体交渉をすりゃあいいんだろ!」とのことで、話し合いのテーブルには着いたが、
まともに取り合っていなかったケースがあったとします。

 

これは、もはや「団交拒否」みたいなものですよね。(「団交拒否」なんですが。)

 

裁判所(カール・ツァイス事件・東京地判平成元年9月22日)は次のように述べています。

 

「労働組合法7条2号は、使用者が団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しているが、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も、右規定により団体交渉の拒否として不当労働行為となると解するのが相当である。このように、使用者には、誠実に団体交渉にあたる義務があり、したがって、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるものと解すべきである。」

 

つまり使用者は団体交渉(団交)をするにあたって、単に応じればすむものではなく、「誠実に団体交渉にあたる義務」があるのだと述べられています。

 

極めてマトモな判断ですね。

 

ただし、次のようにも述べています。

 

「使用者の団交応諾義務は、労働組合の要求に対し、これに応じたり譲歩したりする義務まで含むものではないが、……右要求に応じられないのであれば、その理由を十分説明し納得が得られるよう努力すべきであ」る。

 

使用者には話し合いに誠実に応じる義務はありますが、
労働組合の要求を呑む義務はありません。

 

当たり前のことだと思われるかもしれませんが、覚えておいてください。

 

むしろ法律は、どこまでも「当たり前」を追求するものなんですよ。

 

以上が「団交拒否」でした。

 

B支配介入

 

続いて、「支配介入」です。

 

労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。(労組法7条3号)

 

この類型が一番わかりにくい(というか、表面化しにくい)不当労働行為だと思います。

 

たとえば、労働組合の動向が気に入らないので、
何とかして組合の弱体化を図りたいと考えたとしましょう。

 

そこで回りくどい表現を利用して、
組合活動をけん制したり、事実上妨害しようとしたりすることがあります。

 

実際にあった例(プリマハム事件・最二小判昭和57年9月10日)で見てみましょう。

 

昭和47年4月15日、いくら団体交渉を重ねても決着がつかなかったため、A労働組合は団交決裂宣言をしました。

 

これを受けた使用者Xは、全従業員に向けた声明文を事務所に掲示しました。

 

その内容は、次のようなものでした。

 

「従業員の皆さん
本年の賃上げ交渉も大変不幸な結果になってしまいました。
 会社は常に従業員とその家族の皆さんが、幸福な生活が出来るよう努力すると共に、お得意先、消費者並びに株主の方方への義務を配慮しながら経営を進めて来ております。
 しかし経済界の変動が激しく、年間計画通りの成績をあげ得ることが出来ないのが状態であります。
 しかし我が社は昨年、一昨年のストライキ後遺症が、未だ癒えきらないで残っております。
 こうした状態ではありますが、本年度の皆さんの要求に対しては、支払能力を度外視して労働問題として解決すべく会社は、素っ裸になって金額においては、妥結した同業他社と同額を、その他の条件については相当上廻る条件を、4月15日提示しました。
 これは速やかに妥結して、今後は会社と従業員の皆さんが一体となって生産に、販売に協力して支払源資を生み出す以外に、Xの存続はあり得ないと判断したからであります。
 ところが組合幹部の皆さんは会社の誠意をどう評価されたのか判りませんが、団交決裂を宣言してきました。
 これはとりもなおさず、ストライキを決行することだと思います。
 私にはどうもストのためのストを行なわんとする姿にしか写って来ないのは、甚だ遺憾であります。
 会社も現在以上の回答を出すことは絶対不可能でありますので、重大な決意をせざるを得ません。
 お互いに節度ある行動をとられんことを念願いたしております。以上」

 

この声明文が出されたあと、組合が予定していたストライキから脱落者が193名出るに至り、同年5月15日の妥結までストライキが決行されることはありませんでした。

 

そこでA労働組合は、この声明文の掲示が不当労働行為(支配介入)にあたるとして労働委員会に申し立てました。

 

以上が事件の概要です。

 

労働委員会は支配介入にあたるとして、救済命令を出しました。

 

これを不服とした会社Xは、事件を裁判所に移しました。(こうした形を行政訴訟といいます。)

 

裁判所はどう答えたのでしょうか。

 

「およそ使用者だからといって憲法21条に掲げる言論の自由が否定されるいわれがないことはもちろんであるが、憲法28条の団結権を侵害してはならないという制約をうけることを免れず、使用者の言論が組合の結成、運営に対する支配介入にわたる場合は不当労働行為として禁止の対象となると解すべきである。」

 

まず、問題となった声明文は表現行為ですので、表現の自由(憲法21条)の問題がありました。

 

しかし、表現の自由も無制限ではないことを確認しています。

 

それでは、どのような言論が不当労働行為になるのでしょうか?

 

先ほどの続きを引用します。

 

「これを具体的にいえば、組合に対する使用者の言論が不当労働行為に該当するかどうかは、言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響などを総合して判断し、当該言論が組合員に対し威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすような場合は支配介入となるというべきである。」

 

そしてこの事件では、使用者の声明文が支配介入にあたる、とされたのです。

 

どうですか?

 

支配介入は、組合活動の意義や組合の存立そのものを脅かす行為を指します。

 

上の事件のように、ある意味「わかりやすい行為」があれば、支配介入と認定することができるでしょう。

 

しかしひとつひとつの行為は中立的な行為に見えても、
総合的に見ると組合つぶしだった、ということも大いにあり得ることです。

 

ですから、支配介入かどうか判断するには、
問題となる事件ごとにしっかり事実を把握しなければならないということですね。

 

私がこれまで何度も述べたことですが、
ある言葉だけ覚えて、これで「支配介入」とは何かわかったつもりにならないでください。

 

ここで説明したのは、
どういった場合に支配介入になるのか、考え方(考えるプロセス)を示しているのです。

 

大事なのは、「支配介入」(または「不当労働行為」)はなぜ禁じられるのか、
原点まで立ち返って考えてみることです。(もう説明しましたよね。)

 

そこが理解できていれば、自ずと「これは『支配介入(不当労働行為)』にあたりそうだぞ」という行為が見えてくるのです。

 

話を戻しましょう。

 

労組法7条3号も但書があります。

 

この説明をしてから次に行きましょう。

 

労働組合は使用者と独立して活動してこそ、労働組合の存立意義があります。

 

それなのに、使用者から多額の資金や利益の提供を受けているとなると、
労働組合としての独立が保たれず、使用者の支配が及ぶこととなります。

 

ところが、特にわが国ではそうですが、
組合員のほとんどが同じ会社の従業員であった場合、
活動の拠点を会社内に置くのは自然なことです。

 

先ほどの原則を徹底するならば、会社内の施設を借りて組合活動をすることさえ禁止しなければ、ということになります。

 

しかし、それはいくらなんでも行き過ぎだよねということで、
最低限の便宜供与は受けても構わない(使用者の支配介入にはならない)とするのが但書の趣旨なのです。

 

C労働委員会に不当労働行為の審査を申し立てたこと等を理由とする不利益取扱い

 

これは特に説明がいらないと思います。

 

労組法7条4号に規定されており、四つ目の不当労働行為の類型として掲げられています。

 

これで、類型別の不当労働行為の説明は終わりです。

 

最後に、気を付けて欲しいのですが、
ここでは一応類型化したものの、複数の類型に該当する不当労働行為だってあり得ます。

 

どの類型に該当するかは問題ではなく、
どのような行為が不当労働行為なのか、イメージをつかんでいただくことが大事です。

 

 

 

今回は、「不当労働行為」についてお話ししました。

 

組合活動が今よりも活発だったころは、
不当労働行為をめぐる争いが頻繁に起きていました。

 

一方、現在では、
解雇された労働者が事後的に労働組合に加入し、
その労働組合が当該解雇問題について団体交渉を申し出る(これを「駆け込み訴え」といいます)といった形が多く見られます。

 

この団体交渉を断れば、まさしく「不当労働行為」の問題になってくるわけですね。

 

このように、個別的労働関係が集団的労使関係の問題として表れてくることもあるので、
「不当労働行為」とは何か知っておくことは非常に重要です。

 

個別的労働関係が注目されがちな現在の労働法学界ですが、
今でも労働組合の存在意義や専門の行政機関が設けられている意義は失われていません。

 

今こそ、如何に集団的労使関係のあり方を復権するかが問われているのです。