労働法の学習・勉強に

第20話 労働協約

 

久々に大きなテーマです。

 

労働協約についてお話しましょう。

 

以前「就業規則」の回で、
労働契約を構成するものは4つある、という話をしたことを覚えているでしょうか?

 

「労働契約」、「労使協定」、「就業規則」、それから「労働協約」でしたね。

 

これらは、定められ方や定められる内容が異なるので、それぞれの特徴をしっかりと押さえておく必要があります。

 

少し復習しておきましょう。

 

「労働契約」は、もっとも典型的な労働契約ですね。(同じ言葉なので紛らわしいですが)

 

使用者と個々の労働者の合意によって締結されます。

 

労働契約の内容のほとんどが「就業規則」に書き込まれるわが国では、
わざわざ「労働契約」で細かい労働条件を規定することはあまりありません。

 

「労使協定」は、事業場の労働者代表と使用者との間で締結されます。

 

労働時間に関する特則を定める場合など、
特定の労働条件は「労使協定」によって定めなければなりません。

 

「就業規則」は、使用者が一方的に定めることができるものでした。

 

就業規則は労働者の労働条件の多くを規律することから、非常に重要なものでしたね。

 

これらに対して、「労働協約」とはどのような位置づけにあるのか
そもそも「労働協約」とは何かを含めて見ていきましょう。

 

 

 

「労働協約」とは何か。

 

それは、労働組合と使用者が団体交渉をした結果、合意に至った事項を紙に書いてまとめたもののことです。

 

すこし砕けた言い方をしましたが、「紙に書いて」は重要です。

 

労働協約の効力発生要件を定めた、次の条文をご覧ください。

 

労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによつてその効力を生ずる。(労組法14条)

 

なぜ書面を作成する必要があるのでしょうか?

 

これから説明しますが、
労働協約には、(他の)労働契約に定められた労働条件の内容を無効にし、その内容を労働協約の内容に書き換えるという強い効力があります。

 

こうした強力な効力を持たせる以上、
当事者もぎりぎりのせめぎ合いの中で交渉し、妥結しているはずなのです。

 

そんな労働協約が、「やっぱりあれナシしよう」という一言で片づけられては困るのです。

 

労働協約は書面で作成される、このことを覚えておいてください。

 

次に、労働協約の内容と効力です。

 

労働協約の内容は二つに分けることができます。

 

ひとつは、「規範的部分」
もうひとつは、「債務的部分」と呼ばれます。

 

「規範的部分」とは「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」(労組法16条)を定めた事項のことで、賃金、労働時間、休日、休暇等の労働条件や採用、人事異動、解雇等の人事に関する条項が含まれます。

 

「債務的部分」とは「規範的部分」以外について定めた事項のことで、組合活動についての取決めや、チェックオフ(使用者が労働者の賃金から組合費を控除し、まとめて組合に引き渡す仕組み)、平和条項(事前に労働委員会のあっせん等を経なければ、ストライキをしてはならないとの取決め)が含まれます。

 

締約当事者が「規範的部分」、「債務的部分」の条項に違反した場合、
すなわち労働協約に違反した労働者・使用者は、
債務不履行の責任(損害賠償など)を問われることになります。

 

これを、労働協約の債務的効力といいます。
(ただしこれはある意味当然なので、そんなに大事ではありません。)

 

労働協約の効力で大事なのは、次の方です。

 

労組法16条は、労働協約の「規範的部分」について2つの効力を認めています。

 

ひとつは、規範的部分に違反する労働契約の内容を無効にする効力であり、
もうひとつは、無効になった部分や労働契約に定めがない部分については、規範的部分の定める基準にするという効力です。

 

これらの効力を規範的効力といいます。

 

専門用語ばかり並んだので、わかりにくいと思います。

 

例をあげましょう。

 

労働契約では年次有給休暇の取得可能日数について、「労基法に定めるところによる」(最大20日)とされていました。
さらに労働時間は、法定労働時間(8時間)で定められていました。

 

しかし、労働組合ががんばって交渉した結果、
組合員には30日の年次有給休暇が付与され、所定労働時間は7時間とすることが定められました。

 

この場合、労働協約の規範的効力は、
年次有給休暇が30日になったこと、所定労働時間が7時間になったことに表れています。

 

続いて、ちょっと変わった効力の説明をしましょう。

 

労働協約は、労働組合と使用者との間で定められるものでした。

 

当然、労働協約の効力が及ぶのは、
協約の内容を勝ち取った労働組合の組合員に限定されます。

 

言うまでもないほど当たり前な原則に、労組法は例外を設けました。

 

一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。(労組法17条)

 

ある事業場における組合員が4分の3を占めるようであれば、
残りの労働者に対しても労働協約の効力を適用してしまおう、という規定なのです。

 

「そんなの、ずるいじゃないか。労働組合(員)は時間やコストをかけて労働協約を締結しているのに、非組合員までその恩恵に授かるなんて」と怒る人が出てきそうです。

 

私もそんな意見にもっともだ…と思ってしまうのですが、
反対にこの規定がおかれたのにはそれなりに理由があるはずです。

 

最高裁の解釈を見てみましょう。

 

労組法17条の「趣旨は、主として一の事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解される」(朝日火災海上保険(高田)事件・最三小判平成8年3月26日)

 

要するに、少数の非組合員は、必然的に組合員よりも低い労働条件になっているはずなので、統一した事業場の環境を考えると望ましくない状態になってしまう。

 

それならいっそのこと、みんな同じ労働条件に引き上げてしまおうといった発想でしょう。

 

随分無理がある説明ですし、私個人としてあまり納得しきれていない考え方なので、
労組法17条の存在理由についてきれいな説明があれば教えてください笑

 

冗談はさておいて、以上の労働協約の効力を「一般的効力」と呼びます。

 

変わった効力ですが、非組合員にも労働協約が及ぶとする以上、非常に重要な効力です。

 

ただし、気を付けてほしいのは、一般的効力が及ぶのは「非」組合員のみです。

 

つまり工場事業場の労働者の4分の3以上が大組合を組織していたとしても、
別の小さな労働組合の組合員には一般的拘束力が及びません。

 

なぜなら、
使用者と対等に交渉する権利自体は、
小さな労働組合とはいえ大きな労働組合と同等に(憲法によって)保障されているからです。

 

別の組合員にも一般的効力が及ぶと考えると、
当該組合独自の権利を侵害することにほかなりません。

 

一般的拘束力は、あくまでも組合に入っていない労働者にのみ及ぶのです。

 

 

 

以上が労働協約の基本でした。

 

ここからは、労働協約の応用編です。

 

「就業規則」の回でも似たようなことをお話しましたが、
今までの労働条件を維持できなくなり、労働条件が切り下げられるケースがあります。

 

労働組合は組合員のために使用者との交渉に臨みますが、
ときには労働条件の引き下げを認めたうえで、労働協約を締結する場合だってあるでしょう。

 

そのとき、どうしても納得いかない組合員は、
「私(俺)にはその労働協約の効力は及ばないんだ!」と主張したらどうでしょうか?

 

実際に上のような主張をして争った事件(朝日火災海上保険(石堂)事件・最一小判平成9年3月27日)があります。

 

新しい労働協約によって、組合員の定年の引き下げ(63歳から57歳)、退職金算定方法の不利益変更(支給基準率が71.0から51.0)がなされたケースにつき、裁判所は次のように判断しました。

 

労働者の「受ける不利益は決して小さいものではないが、同協約が締結されるに至った以上の経緯、当時の被上告会社の経営状態、同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らせば、同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえず、その規範的効力を否定すべき理由はない。」

 

つまり、
一部の組合員の中に対してわざわざ不利益になるような労働協約を結んだなら別だが、
そういった目的もなく、まともに締結したのであれば、
その労働協約の規範的効力は認められるということです。

 

今回の問題が、
使用者が一方的に変更できる就業規則の問題と違うのは、
不利益を受ける労働者の側にも対抗手段があるということでしょう。

 

たとえば、組合員だったら組合内の意思決定に参加できます。

 

また、組合と意見が対立するなら、
その組合を脱し、自分で別の組合に入って交渉することもできるのです。

 

 

 

最後に、今回の話を総合した問題を考えてみましょう。

 

労働協約で定めた労働条件が不利益に変更されたとします。

 

その労働協約が一般的拘束力を持っていたとき、非組合員(未組織労働者)にも不利益変更の効力が及ぶのでしょうか?

 

裁判所(前掲・朝日火災海上保険(高田)事件)がどう答えたか、見てみましょう。

 

「労働協約には、労働組合法17条により、一の工場事業場の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても右労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められている。ところで、同条の適用に当たっては、右労働協約上の基準が一部の点において未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益とみられる場合であっても、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力を未組織の同種労働者に対して及ぼし得ないものと解するのは相当でない。けだし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからである。」

 

引用した私がいうのも何ですが、この部分はかなりもっともな事を言っています。

 

そもそも労働条件とはその時々で決めていくものですので、
前より有利・不利になったから適用されるうんぬんの話とは無関係だと言っているのです。

 

ですから、
労働協約が不利益変更された場合であっても、
非組合員に一般的拘束力が及ぶことはあり得る、と述べています。

 

ですが、ここからが大事です。

 

「しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容・労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当である。」

 

非組合員(未組織労働者)は組合員と違って、労働協約の変更に関してアクションを起こすことができません。

 

また未組織労働者が当該労働組合に入れなかったことも考慮され(いわゆる「管理職」だったのです)、あまりにも不合理な変更であれば効力は及ばない、とされました。

 

極めて柔軟な判断ではないでしょうか。

 

 

 

今回は「労働協約」という非常に重要なテーマについてお話ししました。

 

ここまでで言いそびれましたが、労働協約の効力は就業規則に優先します。(労基法92条1項)

 

理由は明快です。

 

使用者が一方的に作成できる就業規則よりも、
労働組合との協定によって成立する労働協約の方が、
より一層労働者の意思が反映されていると考えられるからです。

 

労働法が、労働組合や労働協約に期待しているという考え方自体は、昔も今も変わりません。

 

現在、労働組合の弱体化が叫ばれる中、
新たな集団的労使関係を模索することによって、
何とか健全な労使合意が行える環境を整えようとしているところです。

 

ですが、いろいろ難しいですね…。

 

とにかく、正しい労働法(の現状)を伝えることが私の使命です。

 

あなたは何を考えますか?