労働法の学習・勉強に

第17話 労働契約の終了B―雇止め

 

今回は、前回前々回の解雇とは異なり、「雇止め」についてお話ししていきたいと思います。

 

まず「雇止め」とは何でしょう?

 

解雇とは、労働契約が継続中に、使用者の方から契約を解消することでした。

 

わが国の労働者の多くは期間の定めのない契約で働いていましたから、
労働契約の解消の問題と言えば正社員の解雇のことだったのです。

 

他方で、パートやアルバイトといった形で労務に携わる者も労働者です。

 

こうした働き方では多くの場合、1年や3年単位で雇用契約を結び、
働き方次第で契約が更新(延長)されるという方法が採られます。

 

雇止め(やといどめ)とは、パートやアルバイトのように期間が定められた契約(有期労働契約)を締結し、これまでも何度か契約を更新して働いていた者が、契約満了前に契約を更新してもらうことができず、そのまま契約が終了すること等を指した言葉です。

 

法律上の文言でもある「解雇」と違って、「雇止め」は正式な言葉ではありません。

 

「雇止め」の問題を正確に言い直すならば、
有期労働契約を締結していた者が契約の更新を拒否された場合をどう考えるか、ということになります。

 

ところで、そもそもなぜ有期労働契約の更新拒絶が問題になるのか、疑問に思うかもしれません。

 

それでは、6か月の契約で12回更新した後、雇止めされたケースを考えてみましょう。

 

この有期契約労働者は、6年間同じ使用者の下で働いていたことになりますよね。

 

これだけ長く働いていると、仕事にも慣れてきますし、人や環境にも慣れてきます。
このままここで働き続けるのだろうとの期待も生まれてくるでしょう。

 

しかし使用者にしても、有期労働契約にはメリットがあります。

 

期間の定めのない契約である正社員を受け入れると、
使用者が契約を解消するには、前回、前々回でお話しした解雇規制がかかってきます。

 

有期労働契約であっても、当然、解雇規制はかかります。

 

ただ、6か月や1年の契約です、ときっちり決めておけば、
その期間が過ぎれば契約は終了するのですから、解雇可否の審査をする必要がなくなるのです。

 

このように、有期労働契約は雇用調整がしやすく、柔軟な労働需要に対応できる雇用形態として機能してきました。

 

有期契約労働者の雇止めをめぐる問題の背景には、安定した雇用形態を望む労働者の要請と、柔軟な労働力を求める使用者の要請があります。

 

労働法はこの問題をどのように取り扱ってきたのでしょうか。

 

 

 

早速ですが、実際に裁判例(東芝柳町工場事件)を見ていきましょう。

 

まず事実です。今回は趣向を変えて、事実の部分も裁判例の文章を読んでいただきましょう。

 

ここまで事実の概要は私がまとめてきましたが、実は、その大部分を省いてしまっていることに気づいていただきたいのです。

 

本当の事実を知るならば、自ら裁判例にあたる必要があります。

 

「本当の事実」といっても、細かい部分や周辺の情報を含めて大量に書き綴られているので、全部を読む必要はありません。

 

大事なところだけ読めばいいのです。

 

このサイトでは事実の部分を私が抜き出して紹介していますが、
本当はあなた自身で「事実の概要」を抜き出せる、書き出せるようになっていただきたいのです。

 

このサイトの目的は労働法を使いこなせるようになることですので、
確かに私からは知識を提供しますが、あなたにもさまざまなスキルアップを要求しますよ。

 

ただし、心配しないでください。
引用文の後で、もう一度私もまとめます。

 

裁判例のような長文から私が何を抜き出しているのか、参考にしてください。

 

「Y会社は、電気機器等の製造販売を目的とする株式会社であるが、その従業員には正規従業員(本工)(昭和37年3月現在49、750名)と臨時従業員(臨時工)の種別があり、後者は、基幹作業に従事する基幹臨時工(同じく19、460名)と附随作業を行うその他の臨時工(同じく1、470名)とに分かれている。基幹臨時工は、景気の変動による需給にあわせて雇傭量の調整をはかる必要から雇傭されたものであつて、その採用基準、給与体系、労働時間、適用される就業規則等において本工と異なる取扱をされ、本工労働組合に加入しえず、労働協約の適用もないけれども、その従事する仕事の種類、内容の点においては本工と差異はない。Y会社における基幹臨時工の数は、昭和25年朝鮮動乱を機として漸次増加し、以後昭和37年3月までは必ずしも景気の変動とは関係なく増加の一途をたどり、ことに昭和33年から同38年までは毎年相当多数が採用され、総工員数の平均30パーセントを占めていた。そして、基幹臨時工が2か月の期間満了によって傭止めされた事例は見当らず、自ら希望して退職するものの外、そのほとんどが長期間にわたって継続雇傭されている。また、上告会社の臨時従業員就業規則(以下、臨就規という。)の年次有給休暇の規定は1年以上の雇傭を予定しており、1年以上継続して雇傭された臨時工は、試験を経て本工に登用することとなっているが、右試験で数回不合格となった者でも、相当数の者が引続き雇傭されている。Xらは、いずれも、上告会社と契約期間を2か月と記載してある臨時従業員としての労働契約書を取りかわして入社した基幹臨時工であるが、その採用に際しては、上告会社側に、Xらに長期継続雇傭、本工への登用を期待させるような言動があり、Xらも、右期間の定めにかかわらず継続雇傭されるものと信じて前記契約書を取りかわしたのであり、また、本工に登用されることを強く希望していたものであって、その後、Y会社とXらとの間の契約は、5回ないし23回にわたって更新を重ねたが、Y会社は、必ずしも契約期間満了の都度、直ちに新契約締結の手続をとっていたわけではない。」

 

以上が原文です。以下でまとめます。

 

原告Xらは、電気機器等の製造販売を目的とするY会社に雇用期間2か月とする臨時工として雇用されていました。

 

Y会社の従業員には、本工(期間の定めのない契約で働く労働者ですね)と臨時工の種別がありました。

 

臨時工は本工に比べて、給与体系および労働時間等の労働条件について不利な状況に置かれていました。しかし、仕事の種類・内容については本工と何らの差異もありませんでした。

 

また、臨時工が2か月の期間の満了によって雇止めされた例は過去になく、自己都合退職を除いて、ほとんどが長期間にわたって継続雇用されていました。

 

Xらは臨時工として採用されましたが、その際にY会社の担当者から本工(期間の定めのない契約)への登用を期待させるような言動がありました。またXらも継続的に雇用され続けることを信じて契約を締結していました。

 

Y会社とXらとの間で頻繁に契約更新が行われていましたが、必ずしもその都度、契約更新の手続きが採られてはいませんでした。

 

上記の状況の下で、XらはY会社との間の契約を5回から23回にわたって更新して働いていたところ、勤務成績不良や経歴詐称などを理由に雇止めされたのが本件です。

 

本件について、最高裁の判断を見る前に、今回は1審判決(横浜地判昭和43年8月19日)から見てみましょう。

 

1審は以上の事実に対して、次のように判断しました。

 

「会社と原告らとの間に締結された本件各労働契約は、固より正規従業員(本工)契約とは異なり、本工登用試験の合格により本工に採用されうる、当初は有期(2か月)の労働契約であったが、この2か月の雇傭期間の定めは叙上の事実関係の下において本件各労働契約が締結されかつ数回ないし20数回に亘つて更新され原告らが引続き雇傭されてきた実質(いわゆる連鎖労働契約の成立)に鑑みれば、殊に会社の設備拡張、生産力増強に伴う緊急の労働力需要に基く過剰誘引とその利用関係の維持に由来することからしても、漸次その臨時性を失い本件各傭止めの当時にはすでに存続期間の定めのない労働契約(本工契約ではない。)に転移したものと解するのが相当であるから、原告らに対する会社の本件労働契約更新拒絶の意思表示は法律上解雇の意思表示とみるべきであ」る。

 

旧字体が多いため、少し読みにくいですね。

 

ただ言っていることは、そんなに難しくありません。

 

この判決の特徴は、
有期労働契約であっても更新を繰り返す実態があれば「期間の定めのない労働契約に転移」するのだ、と言い切ったことです。

 

短期間の労働契約を何度も更新することは、労働者の雇用環境を不安定なものにします。

 

そこで、更新を繰り返すうちに期間の定めのない労働契約に変わった、と述べることは労働者の保護につながるのです。

 

こうした考え方は「転化説」と呼ばれます。

 

しかしいくら労働者の保護といっても、
有期労働契約を結んでいたのに、いつの間にか期間の定めのない労働契約に変わると考えることは、当事者の合意を基礎にする「契約」の考え方をあまりにも曲げ過ぎていると言えませんか?

 

そこで、二審、最高裁(最一小判昭和49年7月22日)の判決が採った立場は、一審とは違うものでした。

 

最高裁の判決文を引用します。

 

「本件各労働契約においては、Y会社としても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じないかぎり契約が継続することを予定していたものであって、実質において、当事者双方とも、期間は一応2か月と定められてはいるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと解するのが相当であり、したがって、本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各傭止めの意思表示は右のような契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる、とするのであり、また、そうである以上、本件各傭止めの効力の判断にあたっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきであるとするものである」。

 

一審のように、期間の定めのない労働契約に変わったとは言っていませんね。

 

その代わり、「期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態」であったと、
何とも回りくどい表現を使っています。

 

要するに、期間の定めのない労働契約に「変わった」とはいえない。

 

XとYの契約が有期労働契約であることは間違いないが、
更新の回数や契約期間、仕事の内容、採用時や更新時の契約手続き、過去の雇止めの有無などを総合的に考慮すると、
あたかも期間の定めのない労働契約を締結した労働者のように扱われている実態がある。

 

こうした労働者を雇止めする場合には、期間の定めのない労働契約を締結した労働者の解雇と同じような扱いをしましょう、と言っているのです。

 

期間の定めのない労働契約を締結した労働者の解雇がどのようなものであるかは、
前回、前々回でお話ししてきましたね。

 

本件のような雇止めのパターンを、「実質無期契約タイプ」と呼びましょう。

 

 

 

以上で紹介した東芝柳町工場事件最高裁判決において、雇止めの場合にも解雇権濫用法理が類推適用されることが確認されました。

 

ここで、類推適用について説明しておきましょう。

 

類推適用とは、類似する条件の下で適用されているルールがあったときに、直接そのルールを適用できなくとも、考え方だけ借りて適用しようというものです。

 

要するに、雇止めは解雇ではありませんよね。

 

解雇ではなくとも、雇止めの態様によっては解雇と同じ衝撃をもって受け止められる場合というものがあるわけです。(上の事件がそうでした。)

 

そういう場合は、解雇する場合と同じように考えるべきでしょうというのが、
雇止めにおける解雇権濫用法理の類推適用という表現になったのです。

 

よろしいでしょうか?

 

雇止めにも解雇権濫用法理が適用されることがあるとの判決は、雇用実務に興味深い変化をもたらしました。

 

それは、「更新手続き厳格化」などの有期契約労働者の適正管理です。

 

東芝柳町工場事件で問題があったのは、
期間の定めのない契約労働者(本工)と有期契約労働者(臨時工)との区別がつきにくい(つかない)ことでした。

 

裏を返せば、「あなたは正社員」、「あなたは契約社員」…などとしっかり区別して雇用管理していれば、雇止めが解雇と同じように扱われることはないということになるのです。

 

こうして、「実質的無期契約タイプ」の雇止めは少なくなっていきました。

 

それでは、しっかり区分して雇用管理がなされていれば、
何の制限もなく雇止めが許容されるのでしょうか?

 

これに対して「そうとも限らないよ」と言った裁判例が、日立メディコ事件(最一小判昭和61年12月4日)です。

 

原告Xは、昭和45年12月1日から同月20日まで期限付き臨時員としてYに雇用されました。

 

Xは同月21日から昭和46年10月20日まで、期間2か月の労働契約を5回にわたって更新して働いていました。

 

Yにおける臨時員制度は、景気変動に応じた雇用量の調節のために設けられたもので、臨時員の採用には簡単な方法がとられ、その仕事は簡単な作業が中心でした。

 

昭和46年1月以降、不況等の影響によってYは人員の削減を図ることとし、
同年10月20日の契約期間満了をもって、Xを含む臨時工14名全員およびパートタイマー6名を雇止めするに至りました。

 

それでは、最高裁の判断です(控訴審の判断を維持しているので、控訴審の判断でもあります)。

 

「原審(筆者注:控訴審のこと)の確定した右事実関係の下においては、本件労働契約の期間の定めを民法90条に違反するものということはできず、また、5回にわたる契約の更新によつて、本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したり、あるいは上告人と被上告人との間に期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできないというべきである。」

 

まず本件では、転化説が否定され、東芝柳町工場事件では認められた「実質的無期契約タイプ」であることも否定されました。

 

こうなると、もはや雇止めには制限がかからないの?というのが先ほどの疑問でしたね。

 

続きを読んでみましょう。

 

「Yの臨時員は、季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Xとの間においても五回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めにするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反又は不当労働行為などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかったとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるものと解せられる。」

 

ここで、東芝柳町工場事件とは違う論理が出てきました。

 

つまり、日立メディコ事件における原告Xは、実質的に無期契約労働者と同じように扱われていたとはいえない。
けれども、契約が更新される期待は保護されなければならない、とされたのです。

 

2か月間の契約を5回も更新していたことが、
契約更新への期待を形成していったと認められたのですね。

 

日立メディコ事件のような形で、雇止めに制限が加えられるパターンを「期待保護タイプ」と呼ぶことがあります。

 

ただし「期待保護タイプ」に分類されるかどうかは、
「5回更新したら」とか、「更新し続けて2年たったら」といった明確な基準がないため、事例によって変わるとしか言えません。

 

「雇用関係継続への期待」があるかどうかは、
・業務の性格・内容(期間の定めのない契約を締結している労働者との違いはあるか)
・採用時における使用者の説明(「一年働いてくれたら必ず正社員にするよ」といった言動はなかったか)
・更新の手続きと実態(更新の回数、勤続期間、手続きの態様など)
これらを総合的に考慮して判断することになるでしょう。

 

こうして、「実質的無期契約タイプ」、「期待保護タイプ」の雇止めには解雇の場合と同じ規制がかかるという考え方(これを「雇止め法理」と呼びます)は、一定の決着をみました。

 

これら二つの雇止め法理は、現在では労働契約法の条文に書き込まれています。

 

確認してみましょう。

 

(労働契約法19条)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一  当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

 

長くてわかりにくいと思いますが、
労働契約法19条1項は東芝柳町工場事件判決で言われたこと、
労働契約法19条2項は日立メディコ事件判決で言われたことをそのまま条文化しただけです。

 

 

 

今回は「雇止め」をめぐる紛争について、労働法はどう考えるのか、お話してきました。

 

今回の話があなたにとって少し煮え切らないと感じるならば、
それはこういうことでしょう。

 

「雇止め」の紛争の裏にあるのは、
安定した雇用形態を望む労働者の要請と、柔軟な労働力を求める使用者の要請との厳しい対立です。

 

要するにそれは、「雇止めの問題」というより、「有期契約労働者の問題」、ひいては「非正規雇用労働者の問題」の枠組みで扱うべきテーマなのです。

 

このサイトは、ひとまず労働法を概観してもらいたいとの趣旨で書かれていますから、
現代的課題としての非正規雇用問題に深く言及することはできません。

 

私自身、大変興味を持っているテーマなので、
非正規雇用問題は必ずどこかでまとめたいと思っています。

 

問題の解決には、まず問題を知ることです。

 

今は焦らず、一通り労働法の如何を知ったうえで、
細かいテーマの勉強を進めていってほしいと思います。