労働法の学習・勉強に

第16話 労働契約の終了A―解雇(2)

 

今回も前回に引き続いて、「解雇」がテーマです。

 

前回はかなり大事なことをお話ししましたので、
もう一度おさらいしておきましょう。

 

期間の定めのない雇用契約であれば、本来、使用者も労働者も自由に解約ができるはずでした。(民法627条参照)

 

しかし、労働法特有の考え方や日本型雇用慣行が相まって、
使用者側からの解約(解雇)のみに制限が加えられるようになりました。

 

現在では、法律での規制のほか、
解雇権濫用法理(条文化されたので、解雇権濫用法制と言った方が正確ですね)の規制がかかります。

 

また、解雇には「普通解雇」、「懲戒解雇」、「整理解雇」の三種類あります。

 

「懲戒解雇」は『懲戒』で、「普通解雇」は「解雇(1)」でお話ししましたので、
残る「整理解雇」が今回の主題です。

 

それでは、本題に入りましょう。

 

 

 

整理解雇とは、経営上の問題から一定数の労働者の削減を目的に行われる解雇をいいます。
いわゆる「リストラ」と呼ばれるものです。

 

整理解雇の特徴は、何といっても労働者側に解雇の原因がないことです。

 

「労働者側に解雇の原因がなくとも解雇されてしまうのはおかしい!」、と怒る方もあるでしょうが、契約の原則を思い出してください。

 

期間の定めのない雇用契約は本来、当事者双方の解約が認められているのです。
そこに使用者側にのみ制約がかかっているのが現在のルールではありますが、
いくら期間の定めのない契約であろうと、使用者が労働者を雇用し続ける義務は課せられていないのです。

 

とはいっても、使用者の行使する解雇に対する規制が強力であれば、
仮に解雇の自由が原則であったとしても、実体としては例外のように見えるのかもしれません。

 

話がややこしくなってきましたので、ひとまず法律論は横に置いておきましょう。

 

わが国で整理解雇をめぐる争いが生じたとき、裁判所はどのように取り扱ってきたのでしょうか?

 

整理解雇をめぐる訴訟として著名な東洋酸素事件(東京高判昭和54年10月29日)を例にとりましょう。

 

この事件の被告Y社は、酸素・アルゴン・窒素等の製造販売等を営む会社でしたが、
同社のアセチレンガス製造部門の業績悪化から、同部門の閉鎖を決めました。

 

それに伴い、アセチレンガス製造部門にいた原告Xらは、就業規則上の解雇事由「やむを得ない事業の都合」に該当するとして解雇されました。

 

裁判所は今回の事件において、就業規則における「やむを得ない事業の都合」があったかどうかについて、次のように判断しました。

 

引用します。

 

「およそ、企業がその特定の事業部門の閉鎖を決定することは、本来当該企業の専権に属する企業運営方針の策定であって、これを自由に行い得るものというべきである。しかし、このことは企業が右決定の実施に伴い使用者として当該部門の従業員に対する解雇を自由に行い得ることを当然に意味するものではない。」

 

まず、事業部門の閉鎖は使用者の自由であることを確認します。
これは当然でしょうね。

 

「我国における労働関係は終身雇用制が原則的なものとされており、労働者は、雇用関係が永続的かつ安定したものであることを前提として長期的な生活設計を樹てるのが通例であって、解雇は、労働者から生活の手段を奪い、あるいはその意思に反して従来より不利な労働条件による他企業への転職を余儀なくさせることがあるばかりでなく、その者の人生計画を狂わせる場合すら少なくない。したがって、労働者を保護するために、たとえば労働基準法19条1項に見るように、法律の明文によって使用者の解雇の自由が制限されていることがあるが、そのような場合に当たらないときであっても、先に述べたように解雇が労働者の生活に深刻な影響を及ぼすものであることにかんがみれば、企業運営上の必要性を理由とする使用者の解雇の自由も一定の制約を受けることを免れないものというべきであり、Y会社の就業規則52条が使用者側の都合による従業員の解雇を無制約なものとせず、『やむを得ない事業の都合によるとき』に限定したのは、右に述べた事理を就業規則上明文化したものと解されるのである。」

 

上の引用文は、これまで私が説明してきた解雇規制の話の通りですね。

 

裁判所は終身雇用制という日本型雇用慣行を重く見て、法律(労基法など)の規制のほかに、解雇が制限される場合があると述べています。

 

続きです。

 

「しかして、解雇が右就業規則にいう『やむを得ない事業の都合による』ものに該当するといえるか否かは、畢竟企業側及び労働者側の具体的実情を総合して解雇に至るのもやむをえない客観的、合理的理由が存するか否かに帰するものであり、この見地に立って考察すると、特定の事業部門の閉鎖に伴い右事業部門に勤務する従業員を解雇するについて、それが『やむを得ない事業の都合』によるものと言い得るためには、第一に、右事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむをえない必要に基づくものと認められる場合であること、第二に、右事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは右配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に使用者の恣意によってなされるものでないこと、第三に、具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること、以上の三個の要件を充足することを要し、特段の事情のない限り、それをもって足りるものと解するのが相当である。」

 

ここで裁判所は、判断基準を立てています。
後でもう一度解説しますが重要な部分ですので、いったん確認しておきましょう。

 

ここでは整理解雇が許容される要件が三つ挙げられています。

 

@事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむをえない必要に基づくものと認められる場合であること
A事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは右配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に使用者の恣意によってなされるものでないこと
B具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること

 

東洋酸素事件では、これらの要件を満たせば整理解雇が認められるとしました。

 

ここからは、整理解雇は認められてしかるべき、という論をさらに補強するためにつらつらと理由が述べられています。

 

「以上の要件を超えて、右事業部門の操業を継続するとき、又は右事業部門の閉鎖により企業内に生じた過剰人員を整理せず放置するときは、企業の経営が全体として破綻し、ひいては企業の存続が不可能になることが明らかな場合でなければ従業員を解雇し得ないものとする考え方には、同調することができない。けだし、使用者はいったん労働者を雇用した以上客観的、合理的事由のない単なる自己都合によってこれを解雇する自由を有しないことは前述のとおりであるけれども、資本主義経済社会においては、一般に、私企業は、採算を無視して事業活動及び雇用を継続すべき義務を負うものではないし、また、事業規模の縮小の結果労働力の需要が減少した場合に、全く不必要となった労働力をひきつづき購買することを強制されるものではなく、雇用の安定による労働者の生活保障、失業者の発生防止等の観点から私企業に対し、前記以上に雇用に関して需要供給の関係を全く無視した特別な法的負担を課する根拠は現在の法制のもとにおいては認められないからである。」

 

企業が倒産寸前まで追い込まれてはじめて整理解雇が認められるのでは、
もはや資本主義と整合しないとの主張は至極もっともでしょう。

 

あくまでも労働法は、資本主義における矛盾を修正するために登場してきたのであって、
資本主義を超えるものではないのです。

 

最後に、手続きの観点から解雇が否定される場合もあると述べています。

 

「なお、解雇につき労働協約又は就業規則上いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し、解雇権の濫用にわたると認められるとき等においては、いずれも解雇の効力が否定されるべきであるけれども、これらは、解雇の効力の発生を妨げる事由であって、その事由の有無は、就業規則所定の解雇事由の存在が肯定されたうえで検討されるべきものであり、解雇事由の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはならないものというべきである。」

 

先ほどの三つの要件は、整理解雇が認められるための要件でした。
最後の引用文で述べられた内容は、整理解雇が否定される事由となります。

 

C解雇につき労働協約又は就業規則上いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し、解雇権の濫用にわたると認められるとき

 

これでようやく東洋酸素事件判決を見終わりました。

 

この事件だけでなく、整理解雇をめぐる訴訟は山ほどあります。

 

多くの裁判例が積み重ねられ、今では整理解雇の有効性を判断する四要件があるといわれています。

 

(1)客観的に人員削減をする必要性があること(「何となく人を減らしたい」ではだめです。)
(2)解雇回避努力を尽くしたこと(他の部署に空きはないか…など。)
(3)解雇の対象となる人選基準が合理的であり、その基準に従って選ぶ作業も合理的であること(どさくさに紛れて、気に食わない労働者を解雇してはいけません。)
(4)組合や被解雇者と十分な協議をしたこと

 

これは「整理解雇の四要件」として、一般的にも有名です。

 

ここで、東洋酸素事件判決と「整理解雇の四要件」を見比べてください。

 

@〜Cは(1)〜(4)に対応していますが、
東洋酸素事件では、C(4)は要件ではないとはっきり述べられています。

 

このように、「整理解雇の四要件」として知られている判断基準ですが、
四要件すべて満たすことを求める裁判例や、すべてを要求しない裁判例もあることを知っておいてください。

 

 

 

今回は、解雇の中でも、整理解雇を取り上げて説明しました。

 

東洋酸素事件判決を読んでもわかる通り、
わが国の解雇規制は日本型雇用慣行と密接不可分です。

 

ですから、解雇規制が厳しすぎるとの批判は、一見理解できなくもありません。

 

しかし、整理解雇の四要件を見ればわかるように、
判断基準自体は、厳しいとか厳しくないという問題からは中立であると思いませんか?

 

解雇規制が厳しいと見られるのは、判断基準の使い方(運用)にあるのかもしれません。

 

ですが、今や日本型雇用慣行は崩壊しつつあります。

 

裁判所による整理解雇の有効性判断の方法も、当然変わっていくでしょう。

 

そもそも、裁判所は「整理解雇の四要件」を使って判断しなければならないわけではありません。

 

大雑把に言えば、裁判所が目的としているのは、持ち込まれた紛争の解決ただこれのみです。
当該紛争固有の事実を当事者から聞き出し、時代の流れを踏まえ、そこに法律の考え方を用いて判断しているのです。

 

このサイトを読んでいるあなたは、すでに法律的な物の考え方ができてきているはずです。

 

正しい雇用ルールを身につけ、錯綜した議論に流されない思考をするように心掛けてください。