労働法の学習・勉強に

第12話 労働契約の内容(各論)―労働契約上の権利義務

 

前回のテーマは、労働契約の内容を規定するうえで重要な役割を果たす「就業規則」でした。

 

今回は各論として、具体的な権利義務について見ていきましょう。

 

権利義務についていまさら言うまでもありませんが、
一応簡略化して説明しておきましょう。

 

権利とは、他者から何かをしてもらえる、他者に対して何かを要求することができる地位にあることをいいます。

 

義務とは、他者に何かをしなければならない、他者に対して何らかの要求を受けなければならない地位にあることをいいます。

 

これを踏まえて、労働契約における当事者(労働者と使用者ですね)の権利義務について説明します。

 

 

 

@基本的な権利義務

 

労働契約が締結されると、当事者には次の権利義務が発生します。

 

使用者には、労務給付請求権、業務命令権(指揮命令権)、賃金支払義務が、
労働者には、労働義務、誠実労働義務(職務専念義務)、賃金債権が発生します。

 

今まで何度も説明していますが、
労働契約とは、労働者が労務を提供し、その対価として使用者が賃金を支払うことで成立しています。(労働契約法6条)

 

「〜権」や「〜義務」は、その原則を言い直した形に過ぎません。

 

そこで、労務給付請求権、賃金支払義務、労働義務、賃金債権の説明は不要でしょう。
そのままの意味です。

 

ここでは、業務命令権(指揮命令権)、職務専念義務(誠実労働義務)の話だけしましょう。

 

使用者は、労働契約によって業務命令権を取得します。(電電公社帯広局事件・最一小判昭和61年3月13日)

 

業務命令は、労務提供に関する命令が基本です。

 

しかし、職場内における調査への協力、健康診断の受診、出向など、
労働者が本来提供するべき労務とは必ずしも関係しない事項も対象となります。

 

職務専念義務については、最高裁(目黒電報電話局事件・最三小判昭和52年12月13日)で次のように述べられています。

「職員がその勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するもの」

そして、職務専念義務の違反というためには、
「現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではない」

 

…どう思われますか?

 

私の感想を言ってはまずいですが、
職務上の注意力のすべてを捧げることが必要であったり、
実害が発生していないにもかかわらず職務専念義務違反になる場合があったりと、
「そんな無茶な!」と思わずにはいられません。

 

もう少し職務専念義務を狭めた解釈のほうが、妥当ではないでしょうか。

 

とにかく、業務命令権・職務専念義務は広範に捉えられているということは、押さえてくださいね。

 

A付随的な権利義務

 

ここからは、労働契約から生じる付随的な権利義務について話していきます。

 

付随的な権利義務とは何か。

 

たとえば、仕事上扱う資料に「社外秘」とされているデータがあったとします。

 

にもかかわらず、ライバル企業の友人にこのデータを渡してしまった。

 

そのライバル企業はそのデータから素晴らしい商品を作り上げ、一気にシェアNo1を獲得した…。

 

ここまでストーリーを作らなくとも、
職場内で知り得た情報で、第三者に漏らしてはならないとされることがあることはおわかりでしょう。

 

このような義務は、労務の提供と賃金の支払いという本来の権利義務関係を果たすために必要とされるのです。

 

言葉を換えると、
労働契約の本来の目的を遂行するうえで、当然の前提となってくる権利義務とでもいいましょう。

 

それが、労働契約における付随的な権利義務なのです。

 

それでは、具体的にどのようなものが付随的な権利義務なのでしょうか。
代表的なものだけ見てみましょう。

 

まず労働者の付随的義務ですが、
先ほどお話しした、秘密を漏らしてはならない義務として「秘密保持義務」があります。

 

それから、ライバル企業に就職してはならない義務としての「競業避止義務」や、別の職に就いてはいけない義務として「兼業避止義務」があります。

 

他方、使用者の付随的義務には、
労働者の職場環境や健康状態に配慮しなければならない義務として「安全配慮義務」があります。

 

それぞれ検討していると、ものすごいページ数になってしまうので、
ここでは最も重要な「安全配慮義務」について見ておきましょう。

 

安全配慮義務とは何か。

 

安全配慮義務が初めて裁判所で認められた次の事件(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件・最三小判昭和50年2月25日)を見てください。

 

Aは自衛隊員でした。

 

自衛隊駐屯地で車両整備に従事していたAは、後進してきた大型自動車の後輪に頭部を轢かれて死亡しました。

 

遺されたAの遺族Xは使用者であった国Yに対して、
Aの死亡の事実を知った時から4年3か月経過した頃に、損害賠償を求めて訴えを提起しました。

 

続いて裁判所の判決文です。

 

「国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下『安全配慮義務』という。)を負っているものと解すべきである。」

 

この裁判例の意義は、「安全配慮義務」を認めたということにあります。

 

ここでは、国と公務員の関係でしたが、その後民間の労働契約関係でも安全配慮義務の存在が認められました。

 

このように現在では、使用者が労働者に対して「安全配慮義務」を負っていることが認められています。
2008年制定の労働契約法にも条文があります。

 

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。 (労働契約法5条)

 

ただし「安全配慮義務」を理解するうえで、気を付けて欲しいことがあります。

 

それは、「安全配慮義務」は非常に抽象的な概念であることを意識する必要があるということです。

 

どのような時に「安全配慮義務」が働くのかについては、
具体的な事例をいくつか知っていないとイメージすらできません。

 

だからといって、100や200も事例を知っている必要もありません。

 

いまここで気を付けて欲しいと言ったのは、
安全配慮義務という用語を知っているだけでは何の意味もないことを、
確認しただけに過ぎません。

 

以前、権利があることを知っているだけでは何の意味もないと言ったことと同じです。

 

法律関係から演繹的に具体的な事例を想像し、具体的な事例から帰納的に法律関係が抽出できるようになってください。

 

 

 

今回は労働契約上の権利義務について、
基本的な権利義務と付随的な権利義務に分けて解説しました。

 

労働法を概観するのが目的なので、
個別の権利義務に深入りできず、かえって抽象度を高めてしまいました。

 

ただそれは別のところで詳しく解説するつもりなので、
ひとまず労働法の全体を見渡すことで、法律的な理解力を習得していただきたいと思います。