労働法の学習・勉強に

第9話 労基法の定める労働条件B―休憩・休日・年次有給休暇

 

今回のテーマは「休む」ことについてです。

 

法律論として一番重要なのは、年次有給休暇(年休)でしょう。

 

年次有給休暇とは何であるのか、
どういうときに取得できる、もしくはできないのか、
いつものことですが、覚えるのではなく理解してくださいね。

 

 

 

まずは、「休憩」です。

 

労基法の規定をみましょう。

 

使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。(労基法34条1項)

 

つまり、6時間ジャストなら休憩はいらず、8時間ジャストであれば45分の休憩でよいということです。

 

これはもういいでしょう。次行きます。

 

「休日」についてです。

 

労基法の規定です。

 

使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。(労基法35条1項)

 

これが原則ですね。これには例外があります。

 

前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。(労基法35条2項)

 

労基法は日曜日を休日にしろとはいっていません。
おまけに祝日を休日にしなければならないとも規定していません。

 

労基法35条のルールに従ってさえいれば、日曜日・祝日に働かせてもよいのですね。

 

さて、いよいよ「年次有給休暇」です。
これは詳しく見ていきましょう。

 

@年次有給休暇とは

 

年次有給休暇(以下、年休)は、長期間働くことによって蓄積される疲労の回復を図るために、休日とは別に、毎年一定日数の休暇を有給で保障する制度です。

 

A付与日数、取得要件

 

原則として年休の取得には、6か月の継続勤務と全労働日の8割以上出勤が必要です。
その要件を満たした労働者は、10日の有給休暇を与えられます。(労基法39条1項)

 

さらに上の要件を満たしたときから1年ごとに、付与される有給休暇の日数は増えていき、最大で20日の有給休暇が取得できるようになります。

 

また、全労働日の8割以上の出勤の要件が満たすことのできない労働者もいます。
たとえば、アルバイトやパートとして働く人などがこれに当てはまります。

 

そういった労働者に対しても、勤務継続期間や一年間の労働日数に応じて年休が付与されます。

 

具体的には、下のページをご覧いただきましょう。

 

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei06.html

 

B年休の法的性質

 

ここが一番重要です。集中して読んでください。

 

年休を取得することは労働者の権利である、ということはいろんなところでいわれておりますし、確かにその通りです。

 

ですが、そういっている人たちのほとんどが、「権利」という法律で最も重要な概念をわかっていないまま使っています。

 

「権利」がわかっていないというのはつまり、「法律」がわかっていないということ。
ドイツ語で”Recht”といえば、「権利」と「法律」の両方の意味を持つことからもわかるでしょう。(さらには、「正義」の意味も持つのですが、今はここまでにしておきます。)

 

権利とは何かもわからずに権利をかざしてはいけません。
もちろん権利の定義だけ知っていても、何の意味もありません。

 

「年休を取得することは労働者の権利である」のは本当です。
しかし権利にも限界はあります。(民法1条を見てください。)
また、権利ほど空回りしやすい言葉はありません。

 

…このサイトを見ているあなたなら、もう大丈夫ですよね。

 

これから説明する年休権とは、労働法上どのように考えられているのか、
知るだけではだめです、理解し、正しく使えるようになってくださいね。

 

 

 

年休権とは何か、そんな細かいこと(だけど本質的なこと)なんて労基法には書かれていません。

 

学説や裁判例の積み重ねによって、考え方がまとまってくるのです。

 

この問題につき、最も有名な裁判例をご紹介しましょう。
それが、白石営林署事件(最二小判昭和48年3月2日)です。

 

しつこいようですが、この裁判例のいっていることが答えではありません。
この裁判例が、「年休権とは何か」について今のところ最もうまく答えていると周りから評価されている、ただそれだけです。

 

本件における裁判所は、年休権の行使の仕方について、労基法の規定を確認します。

 

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。(労基法39条5項)

 

「請求する」とはどういう意味でしょう。

 

法律の世界で「請求」といえば、請求した相手の「承諾」を待って初めて効果が生じるという意味での理解が一般的です。

 

こう考えると、労働者が「12月24日に有休をとりたい」といっても、使用者が「うーん、どうしようかな」と判断する余地を残すことになります。

 

裁判所はこれを否定します。

 

年休の権利は、労基法1〜4項の「要件が充足されることによって法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまって始めて生ずるものではな」い。また労基法39条5項にいう、「『請求』とは、休暇の時季にのみかかる文言であって、その趣旨は、休暇の時季の『指定』にほかならないものと解すべきである。」

 

「休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、労働者による『休暇の請求』や、これに対する使用者の『承認』の観念を容れる余地はないものといわなければならない。」

 

誤解を恐れず(誤解はまずいですが)、わかりやすく言い直しましょう。

 

労働者の年休権とは、要件を満たすだけで潜在的に権利として発生します。
年休権を行使するには、行使したい日を具体的に「指定」するだけでよいのです。

 

ひとまず、労働者側からの行為だけで年休権が行使できることがわかりました。

 

しかし、労基法39条5項をもう一度読み直してください。

 

「ただし」からの文章で、使用者側の権利も含んでいることがわかります。

 

すなわち、使用者は「事業の正常な運営を妨げる場合」であれば、指定された時季を変更することができるとされているのです。

 

「事業」とは、〜部や〜課といった単位の業務のことです。

 

「事業の正常な運営を妨げる場合」とは何でしょう。

 

この説明は非常に困難を極めます。
具体的状況を待たない限り、何が「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたるかわからないからです。

 

ただ少なくとも、労働法として次のことまでは説明できます。

 

・原則として年休権を行使するには、労働者が年休を取得したい時季を指定するだけでよい。
・ただし「事業の正常な運営を妨げる場合」という、大きな例外があったときには、使用者は時季をずらすことができる。(逆に、ずらすことしかできない。消滅させることはできない。)

 

 

 

それでは最後にあなたにも考えてもらいましょう。

 

A.労働者が「12月24日に有休をとりたい」といいました。
それを言ったのは、12月23日の16時でした。

 

B.労働者が「12月24日に有休をとりたい」といいました。
それを言ったのは、11月12日の16時でした。

 

このふたつを比べるだけでも、年休権の行使は有効か無効か、結論が変わってきそうです。

 

この他に、10人の事業所で8人が「12月24日に有休をとりたい」といった場合や、その事業所がケーキ屋さんだった場合など、結論に影響してきそうな事情はたくさん想定されます。

 

権利を行使するとはどういうことなのか、
イメージがしやすい年休権はそのことを考えるのに最適です。

 

法的思考能力を身につけることで、正しく権利を理解してくださいね。

 

 

 

蛇足ですが、もうひとつここで言いたいことがあります。

 

正しく権利を理解したところで、
実社会でそれが実現できるのかということは、
また別の話になってきます。

 

そうした話も大変重要ですし、
私自身そうした議論についてもどこかで取り上げたいと考えています。

 

しかしそうした話と労働法の話をごちゃ混ぜにすることで、
正しい労働法の考え方が根付いていないことを、私は危惧しています。

 

私は、少なくともこの場では、
できる限り客観的に労働法の考え方をお伝えします。

 

ただし、労働法の考え方を身につけて、最終的に答えを導くのはあなたです。

 

このサイトの意義だけは、最後まで貫かせてください。