労働法の学習・勉強に

第8話 労基法の定める労働条件A―労働時間

 

労働時間とは何であるか、というのは自明なようで意外と難しい問題です。
仕事中トイレに行く時間はどうなのか、昼の休憩時に電話番をしていたらどうなのか…。

 

法律でどうなっているのか確認していきましょう。

 

目次
1.労基法上の労働時間
2.法定労働時間と変形労働時間制
3.時間外労働と休日労働

 

1.労基法上の労働時間

 

「労基法上の」といったものの、労基法には労働時間の定義がありません。

 

そこで何が労働時間に当たるのか、学説や裁判上で議論がなされてきました。

 

ここでは、労働時間とは何かについて初めて最高裁が判断した、三菱重工長崎造船所事件(最一小判平成12年3月9日)をみておきましょう。

 

早速引用します。

 


「労働基準法…32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」


「そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法の労働時間に該当すると解される。」

どちらもものすごく大事なことをいっていますが、
特に大事なのは上のパラグラフのほうです。

 

労基法上の労働時間は、@使用者の指揮命令下に置かれている時間のことであり、A客観的に定まるものであると述べられています。

 

二つ目の客観的に定まる、というのはどういう意味でしょう。

 

たとえば契約書に「トイレに行く時間は休憩とみなす」とか、「研修を受けている時間は(労働していないから)労働時間には含まない」とか書いてあったとします。さすがにこんなことはないでしょうけれども…。

 

そんなことがあろうとなかろうと、
使用者の指揮命令下に置かれている時間であれば労基法上の労働時間なんだということです。

 

使用者の指揮命令下にあるかどうかは、それぞれの事例をみて判断するしかありませんが、
たとえば食料品製造業において製造にあたるのに着替えが必要ですよね。

 

着替えは使用者から義務づけられて行うものですから、
着替えの時間は使用者の指揮命令下に置かれている時間であるといえましょう。

 

下のパラグラフでは、通常は労働時間外に行う行為であっても、一般的・社会的に必要の範囲内であれば指揮命令下に置かれたままの状態であると評価できると述べられています。

 

だから、トイレの時間も労働時間なんですね。
ただし、トイレに立ってから30分戻らなければ、「社会通念上必要と認められ」ませんので、労働時間ではありません。

 

電話番はどうでしょう。

 

仮に電話番をしながら昼食をとっていたとしても、いつかかってきてもいいように「業務の準備行為」をしているのですから、これも労働時間と評価できるのです。

 

労働時間とは何であるかというテーマは、法解釈が必要とされる部分です。

 

法解釈とは、労基法のような法規(法律)に書いていない部分を導き出す技術のことです。

 

労働法を学ぶというのは、法律の解釈技術を身につけることになるのです。
解釈といっても、文学の解釈のように自分で勝手に編み出してはいけません。

 

今回のテーマでいえば、労基法全体の構造や労働法をめぐるさまざまな裁判例の考え方などに沿って導き出されています。

 

上で示した三菱重工長崎造船所事件の判断基準は、
過去の積み重ねから導き出されたものであり、
別にこれが正解だとは誰も保証していないのです。

 

多くの人が労働時間とはこういうものだよね、として挙げるのがこの判断基準なだけです。

 

さらにこの判断基準を使ったとして、
具体的に何が労働時間なのか判断するのは、結局は自分自身です。

 

このサイトが目指すのは、あなたに労働法がわかるようになってもらうことでした。

 

労働法がわかるとは、たとえば、労働時間の定義を覚えることではありません。
そうではなくて、労働時間の定義を使って自分で何が労働時間にあたるのか見当をつけることができるようになることや、その定義すら完全なものでないことが自覚できるようになることなのです。

 

なかなかここまで教えてくれる人がいなかったために、私は労働法を理解するのに相当苦労しました。

 

あなたには、無駄な時間を過ごしてほしくないので、
こうして話のところどころに労働法の理解の仕方を入れていきます。

 

 

 

2.法定労働時間と変形労働時間制

 

労働時間には「法定労働時間」と「所定労働時間」に分けられます。

 

法定労働時間とは、労基法で認められた最長の労働時間のことです。

 

労基法32条に定めがあり、1日8時間、1週40時間まで認められています。
これは有名ですよね。

 

所定労働時間とは、会社で定めた労働時間のことで、法定労働時間を超えない範囲で定めることができます。

 

しかし、仕事によっては繁閑がありますので、柔軟な労働時間制も求められました。
そこで、労基法は4タイプの変形労働時間制を設けています。

 

1か月単位、1年単位、1週間単位の変形労働時間制、そしてフレックスタイム制です。

 

ここでは制度説明を省略します。
詳しくは厚生労働省のサイトにお任せします。
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/week/970415-3.htm
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/flextime/index.htm

 

さらに、柔軟な労働時間制が2つあります。

 

ひとつは、みなし労働時間制です。

 

新聞記者や営業担当の社員など、労働時間の管理が難しい働き方があります。

 

こうした働き方に対応するため、原則として所定労働時間労働したものとみなす制度として設けられました。

 

もうひとつは、裁量労働制です。

 

専門的な技術や知識を用いて働く労働者は、労務の遂行に大きな裁量が認められています。
労働の量よりも質が重視される働き方をする者にとって、労働時間に比例して賃金が支払われる仕組みは本来そぐわないものです。

 

そこで、労使の合意で定めた労働時間数を働いたものとみなす制度が裁量労働制です。

 

大学教授やデザイナーなどの専門業務に認められる専門業務型裁量労働制と、
事業計画に携わるほどの権限を持った労働者などに認められる企画業務型裁量労働制の二種類あります。

 

さらに詳しくは、厚生労働省のサイトにお任せしましょう。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/(専門業務型裁量労働制)
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/kikaku/(企画業務型裁量労働制)

 

3.時間外労働・休日労働、割増賃金

 

最後に時間外労働・休日労働、割増賃金をみていきます。

 

法定労働時間を超えた労働(時間外労働)や法定休日(原則として毎週1回・労基法35条1項)を超えた労働(休日労働)は、原則として労基法違反です。

 

しかし、1日8時間を超えても働きますよね?

 

それは、三六(さぶろく、さんろく)協定を締結しているからなのです。
三六協定と呼ばれるのは、労基法36条に規定があるためです。

 

三六協定は、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」と使用者との書面による協定であり、事業場ごとに締結されます。(労基法36条1項)

 

もし、三六協定もなしに時間外労働がなされているならば当然違法ですし、罰則も適用されます。(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金、119条)

 

つづいて、割増賃金です。

 

労働者が時間外労働、休日労働、深夜業を行った場合は、使用者は割増賃金を支払わなければなりません。(労基法37条)

 

割増賃金が課されるのは、時間外労働等が本来特別な労働であるため、それに対する一定額の補償と、使用者への経済的負担による時間外労働等の抑制を目的にしているといわれています。

 

残業手当として一定額を支払う仕組みをとる企業もあります。この場合、法の定める方法で割増賃金を計算した額よりも、企業の定めた一定額のほうが多ければ問題ありません。

 

反対に、法の定める計算方法で算出した割増賃金額よりも少ない残業手当しか支払われていない場合は、残額を支払う義務があるので注意が必要です。(年俸制を採っていても同じです。)

 

 

 

ところで、ある一定の者に対しては割増賃金の適用がありません。(労基法41条)
なかでも管理監督者に絞って、確認しておきましょう。(労基法41条2号)

 

労基法にいう管理監督者とはどういった人のことでしょうか。

 

これについて、行政解釈(厚生労働省の見解)が出されています。

 

行政解釈によると、「『管理監督者』に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断」する、とされています。

 

つまり、職場で管理職と呼ばれていることと「管理監督者」であることは別の問題である、としているのです。

 

この問題で著名なのは、日本マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日)です。

 

この事件では、ハンバーガー店の店長をしていた原告が、労基法41条2号にいう「管理監督者」に当たるかが争われました。

 

まず裁判所は、「管理監督者」に労働時間に関する規制がされない理由を次のように述べます。引用します。

 

「管理監督者は、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、同法(筆者注:労基法)所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、上記の基本原則(筆者注:割増賃金原則のこと)に反するような事態が避けられ、当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解される。」

 

そのうえで、ハンバーガー店の店長であった原告が管理監督者に当たるかについて、次のような判断基準を示しています。引き続き引用します。

 

「原告が管理監督者に当たるといえるためには、店長の名称だけでなく、実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、@職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、Aその勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、B給与(基本給,役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。」

 

この事件は社会的にも反響を呼びました。名ばかり管理職との言葉を目にすることがあったことと思います。

 

さて、裁判所の結論、判決はどうでしょう。

 

原告は「管理監督者」に当たらない、とされました。
しかも、三つの判断基準のどれも満たしていないとされているのが興味深いです。

 

この判決からも、「管理監督者」に当たる労働者は、かなり限られた範囲でしか認められないといえましょう。

 

この事件の原告が、@どのくらいの権限を持ち、Aどういった働き方をしていて、B実際の給料がいくらだったのか、知りたければ、是非とも一度、自分で裁判例(判決文)に当たってみてください。

 

裁判例はいつでも公開されていますし、そこに事実のすべてが書き出されているのです。
機会があれば、裁判例の読み方もご教示しましょう。

 

 

 

今回は労働時間をめぐる制度や解釈について、お話ししてきました。

 

特に労働時間とは何か、管理監督者とは何かという部分は、力を入れて説明したつもりです。

 

労基法を探しても書かれていない部分は、解釈によって補われています。
この考え方がわかるようになることが、
労働法がわかるようになること、さらには法律が使えるようになることに繋がっていきます。

 

大事なので何度も繰り返しますが、労働法を理解するとは知識を習得することではない。

 

自分で労働法の考え方を使って、問題に対する答えを導くことができるようになることなのです。