労働法の学習・勉強に

第6話 労働者派遣

 

今回のテーマは、労働者派遣です。

 

このテーマでお話するとなると、
労働者派遣制度とは何かという角度からの説明ばかりが目立ちます。

 

時の政権に大きく左右される分野であり、労働者派遣法は頻繁に改正されます。
そのことが制度解説の頻出する原因でしょう。

 

労働者派遣制度が何であるかは、いたるところで勉強できますし、
しょっちゅう改正されるのでここで改めて書く必要はないでしょう。

 

それよりも、労働者派遣を考えるうえで大事なのは、
労働者派遣というあり方がなぜ生まれたのか歴史から振り返り、
根本的な問題を発見しておくことだと思うのです。

 

人に雇われて働くとは何か、という哲学的な内容に繋がってきそうですが、
そこまで深入りはしないので安心してください。

 

 

 

まず終戦直後までさかのぼるのですが、
戦後わが国は、GHQの指導の下で労働法制の改革(というより新設ですが)を行いました。

 

その一環として禁止されたのが、労働者供給事業でした。

 

労働者供給事業とは、
自らと実質的な支配関係にある労働者を他社に送りそこで使用させることで、
その他社から労働者供給料を受け取ることを目的とした事業のことです。

 

労働者派遣と何が違うのかについては、後で説明します。

 

労働者供給事業はなぜ禁止されたのか。

 

それは、こうした事業に該当するのが、
親分子分の関係に代表されるような封建的社会制度を反映するものであったからです。

 

親分は子分の代わりに、会社から賃金を受け取ってその管理をします。

 

親分が子分の衣食住すべての面倒を見てやったといわれており聞こえは良いですが、
落語の『紺屋高尾』に出てくるようないい親分ならともかく、
中には劣悪な環境や食事しか与えない親分もあったといいます。

 

GHQはこうした制度を敵視し、
労働者供給をして、労働者の代わりに賃金を受け取ってしまうような形態を完全に排除したのです。

 

その後、1960年代の高度成長期の頃から重化学工業を中心に社外工、下請労働者が増え始めました。

 

さらに1970年代の低成長期に入ると、減量経営、人減らしの合理化が進められるようになり、
常用労働者が削減される一方で臨時雇(有期雇用労働者)、パートタイマー、下請労働者の導入が目立つようになります。

 

ここで問題となったのは、下請労働者を元請会社に派遣するのは労働者供給ではないかということでした。

 

となると、請負契約と労働者供給契約の違いをはっきりさせる必要があります。

 

ここで出てきた、請負契約とは何でしょう。民法に規定があります。

 

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。(民法632条)

 

わかりますか?
ポイントは、@仕事が一方の当事者のみで行われること、A仕事が完成して始めて報酬の支払義務or報酬を受ける権利が発生するということです。
請負で行う仕事で代表的なのは、クリーニング業です。(@、Aに当てはまっていますね。)

 

これに対して、@供給先の企業から何らかの指示を受けて仕事を提供し、A仕事の完成とは関係なく報酬(賃金)を受け取っていれば、労働者供給の疑いが出てきます。

 

ここで少しまとめましょう。
労働者供給の禁止は、親分子分のような封建的制度を排除することが目的でした。
その目的自体は達成されましたが、皮肉にも労働者供給が疑われる実態は広がり続けたのです。

 

 

 

それでは続きです。

 

いよいよ労働者供給の広がりが無視できなくなったことから、
派遣する会社が使用者としての責任を負うことを大前提とすることで、
1985年、「労働者派遣」として労働者供給の一部が合法化されました。

 

そもそも労働者供給が問題であったのは、
労働者を供給する者(多くは親分)が供給先の企業から労働者の賃金を搾取してしまうからでした。

 

しかしその後、実態として増えていった労働者供給で問題になったのは、
中間搾取よりも、だれが使用者なのかという問題でした。

 

そもそも理論的には労働者供給が禁止されていますので、使用者が不明確なまま働く労働者が実態として取り残されてしまったのです。

 

そこで労働者派遣を合法化する根拠となったのは、
労働者を派遣する会社が使用者責任を負う(労働契約の相手方となる)ことを明らかにすることでした。
(「使用者とは何か」は「個別的労働関係上の使用者」の回でやりましたね。)

 

それでは、労働者供給との違いは何でしょう。
それは、労働者は派遣する会社とは「使用される」関係にないという点です。
(「使用される」関係については「個別的労働関係上の労働者」の回でやりました。)

 

労働者供給は、いってみれば供給元にも供給先にも「使用され」ている状態でした。
そこで、派遣元との間にある「使用される」関係を完全に派遣先に移すことを条件に、労働者派遣が認められたのです。

 

まとめましょう。

 

労働者派遣とは、派遣元会社と派遣労働者の間には労働契約のみがあり、派遣先会社と派遣労働者の間には指揮命令関係があるという形態なのです。(労働者派遣法2条)

 

 

 

以上のように、
労働者供給の禁止は法律が先導し、労働者派遣の合法化は社会実態が先行したということが見て取れます。

 

法律を勉強するうえで、法律と実態の双方からの影響を意識するということは非常に重要です。
単純に、法律を作れば社会は変わるという考えを持つ人が多いように感じますが、それだけでは間違いです。
法律を守る人がいなければ、作られた法律は何の意味も持たないのです。

 

労働者派遣をめぐる法律関係は相互の影響が顕著に現れている良い例でしょう。

 

 

 

こうして1985年に制定された労働者派遣法ですが、
労働者派遣の契約形態自体は現在でも同じです。

 

ここまで契約の視点から解説しましたが、
今回はもうひとつ違った視点から労働者派遣を切ってみましょう。

 

労働者派遣法が制定されたとき、ひとつの法理念として掲げられたのが、
「常用代替の防止」でした。

 

要するに、派遣労働者が広がりすぎることで、正社員が職を奪われることがあってはならないとする考え方です。

 

その現れとして、当初派遣が認められていたのは、「専門的な知識・技術・経験を必要とする業務」や「臨時的・一時的な業務」のみでした。

 

「専門的な知識・技術・経験を必要とする業務」であれば、スペシャリストですから多くの正社員とは違った働き方をしているでしょうし、
「臨時的・一時的な業務」であれば、終身雇用が前提の正社員の職を脅かすこともありません。

 

ところが周知の通り、
派遣法の認める業務の範囲は拡大の一途をたどりました。

 

要因はさまざまです。
経営者側の都合もあれば、労働者側の都合もあるのです。(ここは議論があるところなので、あえて避けます。雑ですみません。)

 

ただ、この「常用代替の防止」だけは、
改正の度に守られるべき考え方として残されてきました。

 

今、ここで疑問として提起しておきたいのは、
現在でも労働者派遣法の理念に「常用代替の防止」が残っているのか、ただこれだけです。

 

正社員(定義は別のところで改めてしましょう)として働くことが当たり前でなくなりつつある現在、もしここで「常用代替の防止」を取り除けば派遣法が貫いてきた理念は一体何であったのか。

 

他の働き方とともに、労働者派遣のあり方も根本から見直す必要があるのではないかと思うのです。

 

※内容は概ね同じですが、よりロジカルにした拙稿も存在します。
暇で仕方のないときにのぞいてみてください。

 

労働者派遣法の本質的考察(PDF)