労働法の学習・勉強に

第5話 集団的労使関係上の使用者

 

「個別的労働関係上の使用者」においてお話してきた通り、
下請(派遣元)会社、元請(派遣先)会社、下請(派遣元)会社の労働者の三者が登場する場合、使用者は誰なのかという問題が生じることがあります。

 

もちろん、
「下請(派遣元)会社の労働者というからには下請(派遣元)会社が使用者だろう」
と思われるでしょうし、原則はその通りです。

 

しかし、労働法は時として当事者の意思(当事者の認識)にかかわらず、
事実に即して客観的に評価します。

 

ですので、労働法を通すことで真の使用者を導き出すことは、
非常に意味のあることなのです。

 

そこで、下請(派遣元)会社の労働者であっても、
元請(派遣先)会社が使用者となる場合があることを確認しました。

 

今回は、下請(派遣元)会社の労働者が労働組合を結成していた場合、
下請(派遣元)会社でなく、元請(派遣先)会社を相手に団体交渉ができるのか、
というテーマについてみていきましょう。

 

 

 

まず、原則から確認します。

 

下請(派遣元)会社の労働組合にとって団体交渉の相手方となるのは、通常、下請(派遣元)会社です。

 

ただし、下請(派遣元)会社の労働者は元請(派遣先)会社の下で働いているのですから、
特定の部分については、元請(派遣先)会社に直接掛け合った方が話が早いということもあり得ます。(あり得るどころか、あります。)

 

そこで、下請(派遣元)会社の労働者の属する労働組合が、
元請(派遣先)会社に対して話し合いがしたい、と持ち掛けるケースが出てきます。

 

さて、元請(派遣先)会社はこれを断ることができるのでしょうか。

 

少し話は変わりますが、
自社の労働者によって結成される労働組合が団体交渉を持ち掛けてきた場合は、
当然、これに応じなければなりません。(労組法7条1項2号、団交応諾義務といいます。)

 

これは、自社の労働者が相手なのだから(労働契約関係にあるのだから)、
何の違和感もないでしょう。

 

これに対して、下請(派遣元)会社の労働者は元請(派遣先)会社と、
労働契約関係にないのです。

 

それでは断られても仕方がない、で終わりでしょうか。

 

 

 

結論から言うと、労働法はこうした場合にも、
団体交渉をするべき義務があることを使用者に課し、
下請(派遣元)会社の労働者の保護を図ります。

 

具体的にどのような場合に、団交応諾義務が生じるのでしょうか。
このケースにつき、最高裁で初めて使用者の団交応諾義務が認められた朝日放送事件・最三小判平成7年2月28日を例にとってみていきましょう。

 

まず、事実の概要です。

 

放送会社Xは、テレビ番組制作のためA社B社C社(請負3社)から従業員の派遣を受けていました。

 

Xの番組制作業務にあたり、請負3社から派遣された従業員はXの指示に従い、
Xから支給・貸与される機材などを使用し、Xの従業員とともに業務に従事していました。

 

請負3社の従業員はXのディレクターの指揮監督の下で作業し、
作業時間帯、超過勤務、休憩などはディレクターの判断に応じていました。

 

請負3社の従業員が所属する労働組合であるZは、
請負3社とそれぞれ団体交渉をして、労働協約(詳しくは「労働協約」を参照)を締結していました。

 

そのような中、
ZはXに対して、賃上げ、下請会社の従業員をXの社員にすること、休憩室の設置等を含む労働条件の改善を求めたところ、Xは請負3社の従業員とは契約関係にないことを理由に団交拒否したのです。

 

さて、裁判所はどのように答えたでしょうか。

 

最初に裁判所は、Xは請負3社の従業員にとって労働契約上の使用者ではないことを確認しました。つまり、個別的労働関係上の使用者ではない、ということですね。

 

ここからは長くなりますが、引用します。

 

「Xは、請負3社から派遣される従業員が従事すべき業務の全般につき、編成日程表、台本及び制作進行表の作成を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、作業内容等その細部に至るまで自ら決定していたこと、請負3社は、単に、ほぼ固定している一定の従業員のうちのだれをどの番組制作業務に従事させるかを決定していたにすぎないものであること、Xの下に派遣される請負3社の従業員は、このようにして決定されたことに従い、Xから支給ないし貸与される器材等を使用し、Xの作業秩序に組み込まれてXの従業員と共に番組制作業務に従事していたこと、請負3社の従業員の作業の進行は、作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についても、すべてXの従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていたことが明らかである。」

 

ここは事実の確認ですね。次が重要です。

 

「これらの事実を総合すれば、Xは、実質的にみて、請負3社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたのであり、右従業員の基本的な労働条件等について、雇用主である請負3社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったものというべきであるから、その限りにおいて、労働組合法7条にいう『使用者』に当たるものと解するのが相当である。」

 

つまり、部分的に労働条件を決定していたXは、
その限りにおいて(時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等)労組法7条の使用者にあたるとされたのです。

 

 

 

本判決の意義は、労働契約上の使用者ではない者でも、
部分的にではありますが、労組法上の使用者とされうることが明らかになったことでしょう。

 

以前、個別的労働関係上の労働者よりも集団的労使関係上の労働者の方が、
より多くの者を対象とすることをお話ししました。

 

それは、集団的労使関係では団体交渉を前提とするからでしたね。
「法律上は広めに当事者を認めるから、しっかり話し合ってね」ということです。

 

これと同じ理由で、個別的労働関係上の使用者よりも集団的労使関係上の使用者の方が、
より広い概念であるといわれています。

 

ただ、広いといっても、
労働契約の相手方としての使用者と、団体交渉の相手方としての使用者とでは、
(「使用者」という言葉は一緒でも)意味が違うので一概には比べられないかもしれません。

 

この問題をより突き詰めるならば、
労働契約の相手方でない者に団体交渉の義務を課すだけの正当性をどこから持ってくるのか、ということに尽きるでしょう。

 

「労働契約のようなもの」がある、ではまずいですから、
労働契約関係とはどう違うのか、もっと明らかにしていく必要があります。

 

 

 

今回もなんだかすっきりしないまま終わりますが、法律なんてこんなものなのです。

 

法律は論理の学問ですが、その結論は、実に感覚的なものです。

 

感覚として結論を出しておきながら、その結論に向けて論理付けする。

 

こうした考え方がわかるようになれば、労働法の理解も進みます。

 

総論部分は少し難しかったと思いますが、
一度最後までお読みになってから、もう一度読み返してみてください。

 

必ずや、労働法の仕組みがわかるようになっていることでしょう。