労働法の学習・勉強に

第4話 集団的労使関係上の労働者

 

今回のテーマは集団的労使関係上の労働者です。

 

労働法は伝統的に、
一人の労働者と使用者の間で生ずる法律関係(個別的労働関係)と、
複数の労働者と使用者の間で生ずる法律関係(集団的労使関係)に分けて議論されてきました。

 

集団的労使関係といわれて、イメージはできますか?

 

要するに、労働組合と使用者の関係のことですね。

 

一人では交渉力に劣る労働者ですが、複数人いれば使用者と対等に渡り合えます。

 

わが国の労働者は使用者と対等に渡り合うため、労働三権と呼ばれる権利が憲法によって保障されています。

 

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。(憲法28条)

 

見てのとおり、団結権団体交渉権団体行動権(争議権)ですね。

 

個別の交渉力に劣る労働者は、労働三権を武器に「労働組合」を結成し、
使用者との交渉を重ね、最後はストライキをすることまで認められているのです。

 

労働法の中心は、集団的労使関係にあったといっても過言ではありません。

 

ところがわが国の労働組合は機能不全に陥っており、
そもそも労働組合なんて存在しない企業が多いのが実態です。

 

法律(学)も実態に即して変化しますので、
現在では個別的労働関係の議論の方が主流であるといえます。

 

ただし労働法学界では、集団的労使関係の再興が議論されていますので、
機会があれば触れたいと思います。

 

 

 

さて、テーマは集団的労使関係上の労働者でした。

 

集団的労使関係における法律関係を定めた法律が「労働組合法」(略して労組法・ろうそほう)です。

 

実は、労組法にも労基法のように「労働者」の定義規定を置いているのです。

 

見てみましょう。

 

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。(労組法3条)

 

労基法の定義と違いますね。

 

労基法の定義にあった「使用される」という言葉が、労組法にはありません。
たったそれだけですが、ものすごい違いを生むのです。

 

たとえば、プロ野球選手は球団と個別に交渉・契約して働きますが、
労基法の適用はありません。

 

なぜなら、球団に「使用され」ていないからです。

 

しかし思い出していただきたいのは、
2004年にプロ野球再編問題で球界が揺れたとき、
プロ野球選手会(当時の選手会長は古田選手)がストライキを決行したことです。

 

このとき、プロ野球選手でもストライキができることに驚きませんでしたか?

 

これは、プロ野球選手は労基法(個別的労働関係)上の労働者ではありませんが、
労組法(集団的労使関係)上の労働者ではあるからなのです。

 

同じ労働法なのに、法律によって「労働者」の意味が異なって良いのか。

 

この点については、議論の分かれるところでしたが、
現在では法律によって目的が違うのだから別に良い、という考え方が主流です。

 

労組法は、労基法よりも広い対象者を想定して作られた法律であるといえましょう。

 

 

 

それではここからは、労組法上の労働者かどうかの具体的な判断基準をみていきましょう。

 

労組法上の労働者を判断した最も著名な裁判例が、
CBC管弦楽団労組事件最高裁判決(最一小判昭和51年5月6日)です。

 

まず、事実の概要です。

 

放送事業を目的とするA社は、昭和26年、A社の放送に出演させることを目的に、CBC管弦楽団をつくり、楽団員との間で1年有期の「専属出演契約」を締結しました。

 

楽団員は、A社が指定する日時、場所、番組内容等にしたがってA社の放送等に出演する義務を負い、A社以外の放送およびそれに関連する業務で出演することを禁じられでいました。

 

「専属出演契約」は1年ごとに更新されていたところ、昭和39年に「優先出演契約」、昭和40年10月までに「自由出演契約」に切り替えられました。

 

「自由出演契約」への切り替えによって、楽団員の他社出演を許すものとなっており、A社からの出演依頼も断ることが可能となりました。

 

しかし、昭和40年当時、A社からの出演依頼が以前よりも著しく減少し、
楽団員の出演時間は月平均9時間程度となっていましたが、
この事態を予想していなかった楽団員は、アルバイトで出演報酬の不足を補っていました。

 

そこで、楽団員はX労組を結成し、
A社に対して団体交渉を求めましたが、A社はこれを拒否。
XはY(地方労働委員会)に不当労働行為救済を求めましたが、Yは申し立てを棄却。
したがってXは取消訴訟を提起したところ、
1審、2審ともにA社と楽団員との間に使用従属関係を認め、XはA社の労働者であるとされたのです。

 

最後の部分はよくわからなかったと思いますが、
別のところ(集団的労使関係法の「不当労働行為」の回)で解説をするので、
今はそんなものだとして読み飛ばしてください。

 

1審、2審で敗訴したYは、最高裁に上告しました。

 

いよいよ、最高裁の判断です。

 

最高裁は次の事実に着目しました。

 

・出演の都度、出演条件等を交渉して契約を締結することを避けるため、楽団員をA社の組織内に組み入れ、放送事業に必要な演奏労働力を常時確保していたこと

 

・出演発注を断ることは契約上禁じられてはいなかったが、契約の解除、次年度の更新拒絶があり得ることを当事者が意識し、原則として発注に応じて出演すべき義務があったといえること

 

・会社が随時一方的に指定するところによって楽団員に出演を求めることができ、楽団員が原則としてそれに従うべき基本的関係がある以上、会社は労働力の処分につき指揮命令の権能を有していたこと

 

・楽団員は、演出について裁量を与えられていなかったため、出演報酬は演奏という労務提供それ自体への対価であったこと

 

・出演報酬の一部たる契約金は、楽団員の生活の資として一応の安定した収入を与えるための最低保障給たる性質を有していたこと

 

そしてこれらが、労組法上の労働者と認める要素となったとしています。

 

…よくわからないと思いますので、解説しましょう。

 

まず特徴として指摘できるのは、
労基法上の労働者では重要な要件であった「使用従属関係」が出てきません。

 

CBC管弦楽団労組事件最高裁判決は、下級審(1審、2審)と違って、
本件は労基法上の労働者ではなく、労組法上の労働者の問題であることを明確に意識していたといえるでしょう。

 

それでは何が判断要素になっているのか。

 

はっきり言えば、裁判所も混乱していました。

 

平成20年前後にかけて、労組法上の労働者の判断をめぐり、
行政委員会である労働委員会(後々出てきます)と裁判所が対立し、労働法学界が騒然となったのです。

 

結局、対立を呼んだ三事件すべて、労働委員会の勝利?に終わりましたが、
(三事件:新国立劇場運営財団事件・最三小判平成23年4月12日、INAXメンテナンス事件・最三小判平成23年4月12日、ビクターサービスエンジニア事件・最三小判平成24年2月21日)

 

いかにこの判断が難しいのか、認識させられた出来事であったといえましょう。

 

そんなことがありましたので、労働法研究者も立ち上がり、
平成23年7月には「労使関係法研究会報告書(労働組合法上の労働者性の判断基準について)」が出されています。

 

この報告書はこのテーマに関する最先端の判断基準ですので、
大変大雑把にですが内容をご紹介しましょう。

 

まず基本的判断要素として、
@事業組織への組み入れ(労務提供者が相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されていたかどうか)
A契約内容の一方的・定型的決定(当事者間にどれほどの交渉力格差があるか)
B報酬の労務対価性(報酬がどれだけ労務提供者の労務を反映しているか)
を挙げています。

 

続いて補充的判断要素として、
C業務の依頼に応ずべき関係(労務提供者が依頼に対して、事実上どこまで裁量があったのか)
D広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束(集団的労使関係は「使用される」関係ではないため、この要素はそれほど必要とされないことに注意)
さらに、消極的判断要素(労働者とされない方向に働く要素)として、
E顕著な事業者性(1回の公演で500万円取るようなプロ演奏家が労使交渉を求めてきたとしましょう。これはもはや、労働者ではありませんよね…。)

 

これらが、判断基準になります。

 

これを踏まえて、CBC管弦楽団労組事件の判断と見比べてみてください。

 

なぜ上で挙げた事実が重視されたのかわかるでしょう。

 

 

 

まとめます。

 

労組法上の労働者の範囲は、「使用され」ている者(使用者と使用従属関係にある者)に限りません。

 

その理由は、労組法の目的が、「団体交渉」にあるからです(議論はあります、本当は言い切ってはいけません…。)

 

一見事業主であるプロ野球選手であれ、オーケストラの楽団員であれ、
労組法上の労働者とされるのは、「団体交渉」をすることを考えてのことでしょう。

 

したがって、「使用され」ているかどうかよりも、
どこまで相手方の報酬に依存していたのか(「経済的従属性」といいます)判断する方が、
より重視されていることが指摘されています。

 

今回取り上げた裁判例については、可能な限りわかりやすく書きましたが、ここで抜き出した事実だけでは全然足りません。

 

できればあなた自身で、CBC管弦楽団労組事件判決を読むことをお勧めします。

 

労働法は事実を総合的に考慮して結論を出すことが多く、
事実を詳細に検討しなければ、答えを導くことができません。

 

判断要素だけ頭に入れても何も意味がないことに気を付けて学習しましょう。