労働法の学習・勉強に

公務員の労働基本権

 

労働法入門では言及しませんでしたが、このサイトにおける大部分の内容は、
だいたい民間労働者が対象となっています。

 

これに対して公務員の労働に関する事項は、
すべて法律によって決められています。

 

とはいえ、公務員にも人権があります。(当然です。)

 

公務員は自分たちの労働に関してどこまで関与できるの?というのが今回のお話です。

 

公務員と一括りにするのも議論に差し障りますので、
簡単にどんな種類に分けられるか整理しておきましょう。

 

まず、公務員には国家公務員と地方公務員に分けられます。

 

それから、国家・地方公務員ともに現業職員と非現業職員が存在します。

 

「現業」とは聞きなれないかもしれませんが、要するに公権力の行使にあたらない業務のことで、
例えば市営バスの運転手やゴミ収集作業員(地方公務員)、特定独立行政法人の職員(国家公務員)の業務がこれにあたります。

 

一般に公務員ときいてイメージするのが「非現業」職員にあたると考えていただくとよいでしょう。

 

労働基本権は公務員の職種(業務)や地位に応じて制限の度合いが異なりますので、
今回の話を進める前に公務員にもいろいろあるのだという意識でいることが重要です。

 

それでは、本題に入りましょう。

 

 

 

まずは大前提の話になりますが、
わが国では憲法によって労働基本権(団結権・団体交渉権・争議権)が保障されています。

 

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。(憲法28条)

 

この「勤労者」には公務員を含むすべての労働者を含むとされています。
しかし、公務員は法律によって労働基本権に制限がなされています。

 

それぞれ見ていきましょう。

 

@団結権

 

公務員の労働組合にあたるのが「職員団体」です。

 

国家公務員法(国公法)108条の2、地方公務員法(地公法)52条にそれぞれ規定があります。
内容はほとんど同じですので、ここでは国家公務員法108条の2を掲げます。

 

この法律において「職員団体」とは、職員がその勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体又はその連合体をいう。 (1項)
前項の「職員」とは、第五項に規定する職員以外の職員をいう。 (2項)
職員は、職員団体を結成し、若しくは結成せず、又はこれに加入し、若しくは加入しないことができる。
ただし、重要な行政上の決定を行う職員、重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員、職員の任免に関して直接の権限を持つ監督的地位にある職員、職員の任免、分限、懲戒若しくは服務、職員の給与その他の勤務条件又は職員団体との関係についての当局の計画及び方針に関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが職員団体の構成員としての誠意と責任とに直接に抵触すると認められる監督的地位にある職員その他職員団体との関係において当局の立場に立つて遂行すべき職務を担当する職員(以下「管理職員等」という。)と管理職員等以外の職員とは、同一の職員団体を組織することができず、管理職員等と管理職員等以外の職員とが組織する団体は、この法律にいう「職員団体」ではない。 (3項)
前項ただし書に規定する管理職員等の範囲は、人事院規則で定める。(4項)
警察職員及び海上保安庁又は刑事施設において勤務する職員は、職員の勤務条件の維持改善を図ることを目的とし、かつ、当局と交渉する団体を結成し、又はこれに加入してはならない。 (5項)

 

これを見るに、基本的に公務員は「職員団体」の設立が認められているのですね。

 

ただし5項を見ればわかる通り、警察職員・海上保安庁職員・刑事施設職員は認められていません。
このほか、自衛隊員(自衛隊法64条)、消防職員(地公法52条5項)も認められていません。

 

A団体交渉権

 

職員団体のうち一定の要件を満たし、人事院(国家公務員)や人事委員会または公平委員会(地方公務員)に登録されたものを登録職員団体といいます。

 

登録職員団体は、社交的または厚生的活動を含む適法な活動にかかる事項に関し、当局と団体交渉ができます。
ただし国・地方公共団体の事務の管理および運営に関する事項を交渉の対象とすることはできません。(国公法108条の5第3項、地公法55条3項)

 

さらに重要なのは、職員団体には労働協約を締結する権利が認められていません。
この点は次の争議権の制限と関係しています。

 

B争議権

 

争議権とは、ストライキ(同盟罷業)・サボタージュ(怠業)等の行為をする権利のことです。(詳しくは「争議行為」の回を参照。)

 

これらが認められていることによって、労使間における交渉決裂後の「最後の切り札」として機能するものですが、
すべての公務員に対しては争議権が認められていません。(国公法98条2項、地公法37条1項)

 

以上をまとめると公務員の労働基本権は、団結権以外の多くの部分が制限されているのが現在の状況なのです。

 

 

 

現在の状況を把握したところで、次は公務員の労働基本権が制限されることとなった背景を歴史からひも解いてみましょう。

 

戦後GHQ占領下となったわが国は、民主化政策が急がれました。
さらに戦後の混乱の中、労働運動が活発化しつつありました。

 

労働者の団結権・団体交渉権・争議権を認めた旧労働組合法が制定されたのが1945年12月のことですから、
いかに急ピッチで制度の導入が急がれたかが計り知れます。

 

実はこの旧労働組合法、警察・消防・監獄職員を除く公務員に対しても、
以上の権利を認めていました。

 

ところが1946年9月に公布された労働関係調整法では、
非現業公務員についての争議行為が全面的に禁止されました。

 

急速に制度改革が進む背景には、
労働運動の活発化が国民の共産化につながることをGHQが懸念していたことにあります。

 

1948年7月、マッカーサーは日本政府に対して次の内容の書簡を出しました。

 

@公務員の団交・争議行為を禁止すること
A鉄道・専売公社等の現業部門を、公務員一般職から切り離すこと

 

マッカーサー書簡を受けて、1948年7月、日本政府は「政令201 号」を制定施行しました。
その結果、現業・非現業をとわず一切の公務員について争議行為が禁止され、
公務員の団体交渉権まで禁止されることとなったのです。

 

その後も法整備が進められて現在の形になりましたが、
言及しておきたいのは人事院(国)、人事委員会・公平委員会(地方公共団体)の設立です。

 

これらは、公務員の労働基本権が制限されたことに対する代償として設置されました。
政治的に中立かつ独立した行政委員会となっているのが特徴です。

 

 

 

制度的な説明は以上ですが、続いて法的観点から見ていきましょう。
公務員の労働基本権の制限はどのように説明、理由づけがなされてきたのでしょうか?

 

争点は、憲法28条があるにもかかわらず労働基本権(争議権)を制限する公務員関係諸法が「合憲」なのかということです。
それぞれの時代ごとに裁判所の変遷を見ていきましょう。

 

@戦後直後(昭和20年代後半〜30年代半ば)

 

公務員については憲法15条の「全体の奉仕者」を、
公共企業体(国鉄等)職員については憲法13 条の「公共の福祉」をそれぞれ合憲性の根拠に挙げて、
労働基本権に制限を設けるのもやむなしとしていました。

 

しかしこれらの言葉を持ち出して説明することは甚だ抽象的であり、
何ら説明になっていないとの批判がいたるところから出されました。

 

A昭和40年代

 

戦後直後は抽象的な言葉をもって全面的な制限が認められているように解釈されていましたが、
そうした流れに変化をもたらしたのが全逓東京中郵事件判決(最大判昭和41年10月26日)です。

 

「憲法28条の保障する労働基本権は、さきに述べたように、何らの制約も許されない絶対的なものではなく、国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当然に内包しているものと解すべきである。いわゆる5現業および3公社の職員の行なう業務は、多かれ少なかれ、また、直接と間接との相違はあっても、等しく国民生活全体の利益と密接な関連を有するものであり、その業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは疑いをいれない。他の業務はさておき、本件の郵便業務についていえば、その業務が独占的なものであり、かつ、国民生活全体との関連性がきわめて強いから、業務の停廃は国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるなど、社会公共に及ぼす影響がきわめて大きいことは多言を要しない。それ故に、その業務に従事する郵政職員に対してその争議行為を禁止する規定を設け、その禁止に違反した者に対して不利益を課することにしても、その不利益が前に述べた基準に照らして必要な限度をこえない合理的なものであるかぎり、これを違憲無効ということはできない。」

 

ポイントは、労働基本権の制限と国民生活への影響を比較衡量して、制限が必要な限度を超えなければ合理的だとした部分です。

 

これまで、まるでダメなものはダメと言われていたような説明から、かなり具体的な制限方法に変わっているのが見て取れます。

 

法律による制限が(憲法に適合するように)一定の条件の下でのみ発動するとした、「合憲限定解釈」がとられた判決だと評されています。

 

B全農林警職法事件判決(最大判昭和48年4月25日)

 

全逓東京中郵事件判決以降、都教組事件判決・全司法仙台事件判決(最大判昭和44年4月2日)においてさらに労働基本権の制限を緩めた判決も出されました。

 

このまま公務員の労働基本権の制限が緩やかになるのかと思われた矢先、
突然最高裁は、全農林警職法事件判決において全面的に労働基本権を制限するに至りました。

 

「公務員は、私企業の労働者と異なり、国民の信託に基づいて国政を担当する政府により任命されるものであるが、憲法15条の示すとおり、実質的には、その使用者は国民全体であり、公務員の労務提供義務は国民全体に対して負うものである。もとよりこのことだけの理由から公務員に対して団結権をはじめその他一切の労働基本権を否定することは許されないのであるが、公務員の地位の特殊性と職務の公共性にかんがみるときは、これを根拠として公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由があるというべきである。」

 

憲法15条(全体の奉仕者)や公務員の地位の特殊性と職務の公共性で理由づけがされていますね。

 

この判決を最後に、現在に至るまでこの解釈が維持されています。

 

 

 

こうしてざっと述べてきましたが、
昭和44年の解釈が今も維持されているのを見てもわかる通り、
「公務員の労働基本権」については既に終わった議論になってしまっている感は否めません。

 

それでも2002年11月、連合等の申し立てによってILO(国際労働機関)の勧告が出されています。

 

勧告の内容

 

(a) 日本政府は公務員の労働基本権の現行の制約を維持するという、その公表した意図を見直す
べきである。
(b) 委員会は、この問題についてより広範な合意を得るため、また法制度を改革して結社の自由
の原則に則ったものにするという目的で、公務員制度改革の意義と内容について、関係する全ての
団体と全面的で率直かつ有意義な協議がただちに実施されるよう強く勧告する。これらの協議はと
りわけ、日本の法制度および慣行が 87 号および 98 号条約の規定に違反しているということに関
して次にのべる事項を取り扱わねばならない。
(i)消防職員と監獄職員に自らの選択に基づく団体を設立する権利を与えること
(ii)地方レベルにおける登録制度を修正し、公務員が事前承認に等しい処置にとらわれ
ることなく自らの選択に基づく団体を設立することが出来るようにすること
(iii)官公部門労働組合が専従役員の任期を自ら定められるようにすること
(iv)国家の運営に直接関与しない公務員に、結社の自由の原則に則って団体交渉権とス
ト権を与えること
(v)結社の自由の原則の下で団体交渉権とスト権のいずれかもしくは双方が合法的に制限
もしくは禁止されうる労働者について、彼らから利益を擁護する重要な手段を剥奪する
代償として、国および地方レベルで、適切な手続き及び機関を設立すること

(vi)法制度を改正し、スト権を正当に行使した公務員が重い民法上もしくは刑法上の罰
則を科されないようにすること
(c) 委員会は政府と連合に対し、独立行政法人に移管された 18000人の従業員が、事前承認な
しに、自らの選択に基づく団体を設立あるいは団体に加入することが出来るのかどうか報告するよ
う要請する。
(d) 委員会は政府に対し、大宇陀町事件の判決を提供するよう要請する。
(e) 委員会は政府に対し、公務部門における団体交渉事項の範囲について、関係労働組合との有
意義な協議を持つよう要請する。
(f) 委員会は政府と提訴組合に対し、不当労働行為の救済手続きについて、現行の法令と慣行に
関するさらなる情報を提供するよう要請する
(g) 委員会は政府に対し、上記全ての事項の進展について委員会に情報提供を続け、関連法案の
コピーを提供するよう要請する。
(h) 委員会は政府に対し、政府はこの件について ILO に技術協力を求めることができるという
ことを想起するよう求める。
(i) 委員会はこの問題の法的側面について、専門家委員会の注意を喚起する。

 

結局、「公務員」という特殊性をどこまで考慮するのかという話に帰着します。

 

働き方が多様化したことで、この仕事は公、この仕事は民間、という区別があいまいになっている時代です。

 

一律に「公務員だから」という制限の仕方でなく、
それぞれの事情に合わせた労働基本権の付与が望まれます。