労働法の学習・勉強に

障害者雇用

 

2013年12月4日、わが国は障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」)を批准(条約を守りますよ、ということですね)しました。

 

国連において障害者権利条約が発効したのは2008年のことですから、
実に5年の歳月を要したことになります。

 

これだけ時間がかかったのは、別に政府がさぼっていたわけではありません。

 

国内の法制度を条約に適合させるために、整備に時間がかかっていたのです。

 

ようやく環境が整ったから、条約を批准できたということですね。

 

もちろん、障害者権利条約の影響はわが国だけではありませんでした。
それだけこの条約は、障害者の権利において画期的な変革をもたらしたのです。

 

障害者権利条約は何が画期的だったのでしょうか?

 

それは、障害者は決して保護されるだけの存在ではなく、
むしろ、障害者の側から然るべき待遇を求めることのできる存在であることが正面から認められた点です。

 

専門的に言えば、「保護の客体」から「権利の主体」に変わったのです。

 

この転換は、ただの理念の変化にとどまりません。

 

わが国においても障害者は長い間、社会から隠された存在でした。
こうした背景には、障害(者)は直すべきもの、不足しているものという障害者観があったのです。

 

それが障害者観の変化の流れを受けて、
わが国の法制度にも障害者を「権利の主体」とみる考え方が見られるようになりました。

 

例えば、障害者自立支援法(2006年施行、2012年に障害者総合支援法に改称)の1条の目的規定においては、
「障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与すること」
とあります。

 

また同法2条1項1号においては、
「障害者が自ら選択した場所に居住し、……自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう」
とあります。

 

これは明らかに、障害者の権利及び尊厳を保護、促進する観点を反映しているといえましょう。

 

このように現在のわが国の障害者法制度を語るうえで、
障害者権利条約の存在と影響を無視することはできません。

 

とはいっても、今回のテーマは障害者雇用ですから、
障害者権利条約の話はここまでにして本題に入っていきましょう。

 

ひとまず現在の障害者政策は、
障害者権利条約の存在を意識しながら動いているのだということを知っておいてください。

 

 

 

さて、わが国の障害者政策に話を移します。
障害者政策は大きく二つに分けることができます。

 

ひとつは「障害者福祉」、もうひとつは「障害者雇用」です。

 

前者は移動の支援や介護サービスなど、
後者は障害者の就労にかかわる政策全般をイメージしてください。

 

これら二つの領域は、
一見明確に区別できるように思えます。

 

実際、「障害者福祉」の領域でなされるサービスは、
雇用以外の場面で必要とされるものが大半です。

 

しかし、こうして二つの領域に分けることの弊害も出ています。

 

どういうことか。

 

それは、
働けない障害者は「障害者福祉」で、働ける障害者は「障害者雇用」で解決しようとする意識の蔓延です。

 

「働ける」か「働けない」のか決めるのは通常の場合、企業(使用者)です。
それ自体に問題がないのは当然です。

 

問題なのは、「働けない」と判断されてしまった障害者を、
行政側も同じ判断基準を使って「障害者福祉」の中に押し込んでしまうことでしょう。

 

どういう作業が働けている状態なのか、
その判断が永遠の難題であることは健常者にとっても変わりがありません。

 

しかし、本来ならば「働ける」はずの者が福祉の枠組みでしか活動できない、
といったことがあるのも事実です。

 

今回は障害者福祉には触れませんが、
障害者雇用を考えるにあたっても、
どこかで障害者政策全体を意識しておく必要があると言えるでしょう。

 

 

 

いよいよ本題です。

 

わが国における障害者雇用政策、障害者就労支援策は、
主に二つのアプローチによってなされてきました。

 

「福祉的就労アプローチ」「雇用率アプローチ」です。

 

そこに障害者権利条約の影響から、
三つめのアプローチが注目されるようになりました。

 

「差別禁止アプローチ」です。

 

それぞれどういった特徴を持っているのか、確認していきましょう。

 

@福祉的就労アプローチ

 

障害者の中には働く意思はあっても、
知識や能力などの理由によって一般企業での就労(以下、「一般就労」)が困難な方が多くいます。

 

そこで障害者総合支援法は、
障害者が障害者施設において就労ができるように支援すると規定しています。

 

このような支援の下での就労のことを「福祉的就労」といいます。
福祉的就労は、障害者福祉施策と障害者雇用施策の橋渡しとしての機能を担っているのです。

 

しかし、その機能は十分ではありません。

 

ひとつは、労働法の適用が受けられないことです。

 

「福祉的就労」という特殊な環境での就労に基づく措置なのでしょうが、
最低賃金法すら効かないのですから、なかなかに問題です。

 

もうひとつは、福祉的就労から一般就労への移行がうまくいっていないことです。

 

厚生労働省のホームページによると、
福祉的就労から一般就労へ移行した者は、
平成15年度の1288人から平成23年度の5675人と4.4倍になっています。

 

しかし福祉的就労に従事する者は全体で約16万人なので、
決して移行者が多いとは言えないでしょう。

 

ただ、一般就労に移行できれば万事OKということもないと思いますので、
ここでも福祉と雇用を合わせて考える必要があるのだと思います。

 

A雇用率アプローチ

 

福祉的就労があるとはいえ、
より望ましい社会参加の形態は一般就労であるとされてきました。

 

そこでわが国では障害者雇用促進法が制定され、
同法を中心に障害者雇用施策が展開されています。

 

障害者雇用促進法の中で最も(実行力あるものとして)社会に影響を与えているのは、
雇用率制度でしょう。

 

常用雇用労働者数が一定数以上の事業主は、障害者の雇用の促進を図るために、
一定の雇用率に達する人数の身体障害者、知的障害者を雇用しなければなりません。(障害者雇用促進法43条)

 

一定の雇用率に満たない事業主には、
雇用納付金制度による納付金の支払いが義務付けられるほか、
行政指導の対象となったり、場合によっては企業名が公表されたりします。

 

なぜここまで強力な制度が存在するのでしょうか?

 

障害者雇用促進法にその答えがあります。
見てみましょう。

 

すべて事業主は、身体障害者又は知的障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで身体障害者又は知的障害者の雇入れに努めなければならない。 (障害者雇用促進法37条)

 

キーワードは「社会連帯」です。

 

障害があってもなくても、
誰もがふつうに暮らしていける社会を実現するために。

 

そのためには全員が協力しなければいけませんね、ということです。

 

雇用率制度は、障害者雇用の促進に最も大きな貢献をしました。

 

しかしながら、雇用率制度にも問題がないわけではありません。
端的に言えば、ここまでしなければ障害者の雇用は進まないのです。

 

何より冒頭でも述べた、障害者を特別な保護の客体と捉える障害者観に親和的であることが、
雇用率制度の限界であると言えましょう。

 

そこで、第三のアプローチの登場です。

 

B差別禁止アプローチ

 

障害者権利条約の批准にあたって、
わが国を悩ませたのは(多分)、合理的配慮義務の取り扱いでした。

 

合理的配慮とは次のようなものです。

 

「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。(障害者権利条約2条より、日本政府公定訳)

 

要するに、健常者と同じことができるようにするためのちょっとした配慮だと思ってください。

 

障害者権利条約が特徴的なのは、この合理的配慮の提供をしないことも「障害に基づく差別」だと断言している点です。(障害者権利条約2条参照)

 

この考え方は画期的でした。

 

障害者と健常者の間にある「障害」を取り除くために、
「合理的配慮」をするだけでよいのであれば、それをするべきだ。
否、しなければならないし、それをしないことは差別なのだ。

 

従来より、一歩も二歩も進んだ考え方なのです。

 

ただ、わが国に導入するにあたって、
合理的配慮の不提供は差別だといっても、
何をすればいいかわからないし、差別という言葉は少し刺激的です。

 

そこで2013年に制定された障碍者差別解消法では、
行政機関に対しては合理的配慮の提供を義務付け(7条2項)、
民間事業主に対しては努力義務(8条2項)としています。

 

国のほうで「合理的配慮」の内容を明確化し、
行政主導で「合理的配慮」の水準を高めることが狙いです。

 

こうした方法は、
合理的配慮の不提供を差別と断言する障害者権利条約の狙いからすると少し特殊(間接的?)である感は否めませんが、
わが国の障害者雇用施策の三つめのアプローチとしての期待は高いと言えましょう。

 

 

 

最後にまとめです。

 

障害者雇用の促進はまだまだといったところですが、
理念の段階では着々と進歩しています。

 

いつの日か雇用率制度すらいらない社会が来ることを願って…。

 

もうひとつは、福祉と雇用の融合ですね。

 

縦割りで対策を打つのではなく総合的な視点を持って物事を考えましょう、ということが今回の結論です。

 

 

 

さて、今回は「障害者雇用」というテーマを扱いました。

 

労働法の学習サイトとして取り上げるには非常に珍しいテーマだと思います。

 

このサイトは、
何かの試験対策のために立ち上げたわけでも、
何らかの知識をまとめたものでもありません。

 

労働法の考え方、法律的なものの見方を学んでもらいたいと思って作っているのです。

 

労働法を学ぶ過程で、
こんな問題もあるし、こういう気づきもあったと感じてもらえたら、
書いている私としてもうれしい限りです。

 

学問の習得において、「要領よく」というのを考えてはいけません。

 

自分が思ってもみない方向からヒントを得て、
今取り組んでいる問題を考え、理解することだって多々あるのです。

 

私のサイトを素材に、
自ら学ぶ(語源はマネをする、から来ているのです)ことを心がけてください。