労働法の学習・勉強に

内部告発

 

今回は少し変わったテーマを扱います。

 

「内部告発」と労働法です。

 

内部告発ときいてどんなイメージを持たれるでしょうか?

 

企業の不祥事を暴き出して、社会に広く知らしめる勇気のある行動でしょうか?
それとも、身内の暗黙の了解をひとりいい顔してチクったという裏切り行為ですか?

 

「ウチとソト」の概念が残るわが国にとって、
従来から内部告発はマイナスのイメージをもって捉えられてきました。

 

しかし海外に目を向けると、
告発に成功した者に対する金銭面でのインセンティブが設けられているアメリカのような国があったりしますので、文化の違いには興味深いものがあります。

 

わが国で内部告発をしよう(されそう)という事態になったとき、
法律関係を知っておいた方がよいと思いますので、
簡単に説明していくことにしましょう。

 

 

 

まず企業内で蔓延する不正行為らしきものを知ってしまったとしても、
慌ててマスコミに駆け込むのは賢明ではありません。

 

なぜだと思いますか?
労働法の視点で考えてみてください。

 

 

 

「付随的義務」という言葉が浮かんだらたいへんよくできました。

 

そうです。

 

労働契約を締結した以上、
労務の提供&賃金の支払いにとどまらない義務が互いに生じるのでしたね。(「労働契約上の権利義務」の回を参照。)

 

労働者が負う付随的義務のひとつに「秘密保持義務」というものがあります。

 

もしあなたが暴露しようとしている不正行為があったとしても、
いきなり「秘密保持義務」がなくなるわけではありません。

 

また、「企業秩序維持義務」というものもあります。
内部告発が何かしら「企業の秩序」を乱すことは間違いないのです。

 

「そうはいっても、不正が行われているんだったら秩序も何もないじゃないか!」
と怒られそうですね。

 

慌てないでください。今は原則を確認しているのです。

 

労働契約を締結している以上付随的義務が存在するのだから、
いくら不正行為らしきものを発見したとしても、
いきなり外部にもらすことはフェアではないということです。

 

 

 

それでは、
付随的義務に違反してまで行われるべき告発、または、付随的義務の前提となる労使間の信頼関係がすでに壊れた状態での告発であればどうでしょうか。

 

すなわち、社会的に必要とされる「内部告発」というのは何か(そもそもそんなのがあるのか)という問題です。

 

私はこれを「正しい内部告発」と呼んでいますが、
これまでのところわが国の裁判所は「正しい内部告発」のような概念は認めていません。

 

しかし内部告発の態様によっては、
使用者側の懲戒権の行使が無効にされることはありました。

 

つまり、内部告発に対する懲戒権が制限されたこれまでの裁判例を見ることによって、
逆算的に「正しい内部告発」を浮き上がらせることができるということです。

 

そこで便宜上、裁判所の考える正しい内部告発が存在すると考え、
正当化に必要とされる要件を整理したのが次の四点です。

 

@公益性・目的の正当性
A告発内容の真実性
B内部告発の手段・態様の適切さ
C情報収集方法の適切さ

 

ひとつずつ見ていきましょう。

 

公益性・目的の正当性はわかりやすいですね。

 

告発理由に個人的な感情が混じっていたときはどう考えればよいでしょうか?
この場合、告発に個人的な感情が入るのは致し方がなく、
もっぱら不正の目的でなければよいとされています。(トナミ運輸事件・富山地判平成17年2月23日)

 

告発内容の真実性は、告発内容が思い込みで行われた場合に関係してきます。

 

この場合、完全に嘘っぱちでは元も子もありませんが(正しくない内部告発)、
完全な真実を求めることも告発者には酷(告発できなくなってしまいます)ですので、
真実だと思っても仕方がない事情があればよいとされています。

 

手段・態様の適切さとは何でしょうか。

 

これは、どのように告発したのか、誰に暴露したのかということに関わってきます。

 

告発先として考えられるのは、次の三つ(または四つ)です。
テレビ局や出版社等のマスコミ、行政機関、そして意外かもしれませんが使用者内部へということもあります。

 

それから、今では見過ごすことのできないSNS上での告発です。

 

企業の不正行為を見つけたとき、
まず誰に伝えるのかという問題は非常に重要です。

 

告発者はたいていの場合、
強い使命感から「はやくみんなに知らせなきゃ」と思うのでしょう。

 

しかしながら、情報伝達の速度がすさまじく速い現代では、
ちょっとした一言が企業の存立を危うくすることもあることを忘れてはいけません。

 

そこでまず推奨される告発先は、企業内部になるのです。
企業のコンプライアンスの一環として、独立した担当部署を置いているところ(特に大企業)もあります。

 

企業内にそのような部署がない、内部ではもうどうしようもないとなれば、
しかるべき行政機関に連絡するとよいでしょう。

 

マスコミに駆け込む、SNSで暴露するのは最後の手段と言えます。

 

最後に、情報収集方法の適切さです。

 

いくら使命感から出たとはいえ、
不正を突き止めるために資料を盗んだり、不法侵入等したりしてはいけません。

 

ただし、それも程度の問題ってことですね。

 

 

 

以上が「正しい内部告発」に求められる要件でした。

 

ところで、ここまで言及してきませんでしたが、
実は社会的に有用な告発をした労働者を保護する目的で作られた法律が存在します。

 

2006年施行の「公益通報者保護法」です。

 

この法律は、2000年代始めに社会を揺るがすような内部告発が相次いだことを受けて制定されました。

 

しかし最初からこの法律に言及しなかったのは、
裁判上ではすでに内部告発者保護法理のようなものが確立していたことを伝えたかったからでした。

 

とにかく現在では明文の法律が存在しますので、
この法律に沿って内部告発者(法律では「公益通報者」と言います)の保護がされることになっています。

 

目的だけ確認しておきましょう。

 

この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。(公益通報者保護法1条)

 

公益通報者保護法ができて随分と経ちました。

 

制定当時は、告発者がどれだけ過酷な逆境のなか企業の不正と闘ってきたのかが描かれていました。

 

告発したのはいいものの企業内にはいられなくなり、
取引先はなくなり、むしろ周りから「裏切り者」としてたたかれる…。

 

そんな生々しい実態がセンセーショナルに語られていたものです。

 

もちろん、今でもそうしたことは起こりえますし、知っておかねばならない事実です。

 

しかしこれだけSNSが普及した現在においては、
内部告発と正面から向き合わなければならないのはむしろ使用者の方でしょう。

 

いつ、どこで、どんな情報が出回ってしまうのか全く予想のつかない時代です。

 

まずは突然告発などが起きないよう、風通しのよい職場環境が望まれます。

 

それでも告発しかないと考える労働者は、
公益通報者保護制度というシステムが存在することを知っておくことです。

 

消費者庁のサイトに詳しい説明があります。

 

公益通報者保護法は、使用者に対して何か義務を課すといった規定を設けていません。
これは、法ができるだけ企業内部での解決を促しているからです。

 

法律がいつも強制作用(〜してはならない、〜しなければならない)を持っているわけではないことを知っておきましょう。

 

 

 

今回は、「内部告発」を扱いました。

 

労働法はバランスの学問ですから、
今回もどの辺までなら「正しい内部告発」なのか探ってみたわけですが、
やっぱりその時その時になってみないとわからないという意識も大切です。

 

一度あなた自身が当事者になったつもりで、
どの辺で釣り合いが取れそうなのか考えてみてください。