労働法の学習・勉強に

非正規雇用

 

わが国には伝統的な雇用慣行があるといわれています。

 

「企業別組合」、「終身(長期)雇用」、「年功型賃金制」は三種の神器とまで言われ、ニッポンの高度成長を支えてきました。

 

これらの日本型雇用慣行は確かにニッポンの経済発展に寄与したのでしょうし、
1979年にアメリカで出版された『ジャパン・アズ・ナンバーワン』は多くの日本人に自信と勇気を与えるものでした。

 

しかし日本型雇用慣行が適用されてきたのは、
主に「正社員」であったことを見過ごしてはなりません。

 

「正社員」が職を保障され、福利厚生を享受し、職能教育を施されていた裏では、多数の「非正規労働者」が存在しているのです。

 

今や「非正規労働者」が4割に達しようとしている中、
これまで通りの雇用慣行が維持できなくなっているのは否定できないでしょう。

 

ここまでは誰でも知っていることだと思います。

 

しかし、そもそも「非正規」の雇用とは何でしょうか?

 

世間的にはざっくりまとめられてしまいがちですが、
意外と正確には理解されていません。

 

ここでは非正規労働者の歴史を簡単に説明したあと、
労働法学ではどのように分類されるのか見ていきます。

 

 

 

@臨時工

 

戦後の日本にとって、失業問題は大変深刻なものでした。
1952年の時点で、完全失業者は約47万人、半失業者を含めれば2000万人(当時の労働力人口は3775万人)にものぼるといわれたほどです。

 

これには、戦後の法制度改革が影響しているといわれています。
それは、1947年に制定・施行された職業安定法です。

 

封建的な色彩の強かった「労働者供給」という雇用形態を取り除くため、施行当初の職業安定法は大変厳しいものでした。

 

そこで、これまで組夫、人夫と呼ばれた雇用形態で働き、「請負工」として工場に送り込まれていた労働者は、いったん「臨時工」として直接工場に雇われることとなったのです。

 

経営が安定しだした1950年代になると、大企業は優秀な新規中卒者を囲い込んで養成工を育てる一方、足りない労働力を「臨時工」で補うようになります。

 

こうして「臨時工」と「本工」(今でいう正社員ですね)の格差が問題となるのですが、
問題は長くは続きませんでした。

 

というのも、1950年代後半から高度経済成長期に入ります。
急速に人手不足になると、「臨時工」として雇う必要はありません。

 

1960年代に入ると、「臨時工」を常用工として雇用するようになり、
「臨時工」は瞬く間に減少していったのです。

 

Aパートタイマー

 

臨時工と入れ替わるようにして急増したのが、パートタイマーと呼ばれる労働者です。

 

臨時工の場合は、臨時工のほとんどが男性であり、本工と同じ仕事をしていながら労務管理上の差別を受けていたことで強く問題視されました。

 

しかしパートタイマーのほとんどは女性で、家計の補助として就労するという位置づけであったために、正社員との格差がなかなか問題になりませんでした。

 

1970年代の雇用調整時には、「正社員」の長期雇用は維持されましたが、
その裏では「臨時工」や「パートタイマー」から整理されていたという実態がありました。

 

B派遣労働者

 

先ほども述べた通り、1947年に制定・施行された職業安定法は、他人の下で雇用させるという労働者供給業を禁止しました。

 

しかし大企業の下請会社が協力企業となって工場内の特定の工程を請け負い、
下請会社の労働者は大企業の指揮命令を受けないという形をとることによって、
労働者供給にはあたらないシステムが作り出されたのです。

 

こうしたシステムで働く労働者は「社外工」と呼ばれ、雇用の調整弁として「臨時工」とともに1950年代、1960年代に広く活用されました。

 

一方、1960年代後半から大都市を中心に、事務処理請負業という形で事実上の労働者供給業が広まっていました。

 

この動きは、1985年の労働者派遣法制定という形で合法化に結び付きます。
事務処理請負業に就いていた労働者の多くが女性であったことは指摘しておくべきでしょう。

 

同年(1985年)に男女雇用機会均等法が制定されたことも偶然ではありません。
派遣法導入の理由のひとつに、女性の活躍が挙げられていたことは留意すべきでしょう。

 

Cアルバイト・フリーター

 

アルバイトとは、もともと大学生が学業の合間に行うパートタイム労働を指した言葉でした。

 

この「アルバイト」と先ほどの「パートタイマー」は、
正社員を支える低賃金労働力として長らく活用されてきました。

 

1990年代に入ると、大学を卒業してもアルバイトとして働き続ける若者が出現するようになります。

 

彼らは「フリー・アルバイター」を意味する「フリーター」と揶揄され、
「マトモに働かない若者たち」として批判の対象となりました。

 

しかしながら、「フリーター」のまま中年を迎えるような者も少なくないことや、
「パートタイマー」で生計を立てる者も相当数あることが次第に問題になりました。

 

このあたりから、正社員とその他の者との間に労務管理上(賃金、福利厚生など)の格差があることが「発見」されるのですね。

 

「非正規雇用問題」の登場です。

 

D契約社員

 

契約社員という言葉は、労働法を学んだ者から見れば非常におかしな言葉です。

 

パートであれ、バイトであれ、もちろん正社員として働いている者もみんな、
会社と「契約」を結んでいるのですから。

 

要するに、「パートでもバイトでもハケンでも正社員でもない有期契約の男性労働者」を意識して作られた言葉といえましょう。

 

E嘱託社員

 

定年を迎えた後も引き続き会社に残って働く者を指して、
「嘱託社員」という言葉が使われることがあります。

 

そもそも「嘱託」という言葉は、仕事を頼んで任せるという意味であるので、
ニュアンスとしては非雇用型の契約に近いのです。

 

ですから、引き続き雇用されて働いている者に「嘱託」はおかしいのですが、
一般的に使われるようなので載せておきました。

 

 

 

さて、ここからは法律上の定義とともに、非正規労働者を再分類してみましょう。
法律上は三つに分類することができます。

 

@有期契約労働者

 

有期契約労働者とは、期間の定めのある労働契約を結んで働いている労働者のことです。
多くの「アルバイト」や「契約社員」と呼ばれている労働者がこれに含まれます。

 

通常は契約満了とともに労働契約が終了しますが、
場合によっては「雇止め法理」の適用によって雇止めが無効になることもあります。

 

反対に「正社員」は、期間の定めのない労働契約を結んでいるのが一般的です。

 

A短時間労働者

 

短時間労働者とは、通常の労働者(正社員)よりも所定労働時間が短い労働者のことです。(パートタイム労働法2条)

 

主に「パートタイマー」がこれにあたりますが、多くの「アルバイト」もこれに含まれます。

 

わが国には「パートタイマー」と呼ばれているのに、通常の労働者(正社員)と同じ時間働く労働者(フルタイム・パート)が存在するという、何とも奇妙な現象がみられます。

 

彼(女)らは法律上の短時間労働者にはあたらないことに注意が必要です。

 

B派遣労働者

 

派遣労働者とは、派遣元企業と労働契約を結んでいながら、派遣先企業の指揮命令の下で労働に従事する者をいいます。(労働者派遣法2条1号)

 

この働き方自体は多くの人が知っての通りですが、
法律関係は非常に複雑です。

 

詳しくは「労働者派遣」の回をお読みください。

 

 

 

以上が法律上の分類でした。

 

意外にあっさりとした分類だと思いませんか?
わが国の非正規雇用問題は、主にこれら三つの角度から検討されています。

 

課題としては、多様化する非正規雇用形態に、法はどのように対応すればよいのかという点でしょう。

 

 

 

最後に、もうひとつお話させてください。

 

ここまで「非正規雇用」とはなにか、検討してきました。

 

それでは、その反対語にあたる「正規雇用」とはなにか、
または「正社員」とはいったいどういった労働者を指すのでしょう?

 

2012年に出された厚生労働省での検討会報告書(『望ましい働き方ビジョン』)に、
その答えが取りまとめられています。

 

すなわち、

@労働契約の期間の定めはない。
A所定労働時間がフルタイムである。
B直接雇用である(労働者派遣のような契約上の使用者ではない者の指揮命令に服して就労する雇用関係(間接雇用)ではない。

 

これらは、ほぼすべての「正社員」が満たす要件です。

 

さらに続きます。

 

C勤続年数に応じた処遇、雇用管理の体系(勤続年数に応じた賃金体系、昇進・昇格、配置、能力開発等)となっている。
D勤務地や業務内容の限定がなく、時間外労働がある。

 

この二つの要件も、長期雇用を背景とする「正社員」の特徴として挙げられています。

 

現在では、CやDを満たさない「正社員」も現れています。(マスコミ等には限定正社員などと呼ばれていましたね。)

 

「非正規雇用」の形が多様化している裏では、「正規雇用」の形も多様化していることも、現在の特徴といえるでしょう。

 

 

 

今回は「非正規雇用」とはなにか、お話ししてきました。

 

いまや「非正規労働者」が4割に達しようとしている中、
もう一度典型的な働き方を見直すのか、それとも個々の働き方に合わせたシステム作りを考えるのか、決断を迫られているといった状況です。

 

感情に任せた意見の応酬でなく、客観的な、過去と現在の状況の分析を踏まえた建設的な議論を期待しています。